読むべき本、見逃していない?

1995年で日本のシステムは変わった!

近現代日本史との対話 【幕末・維新-戦前編】

 歴史の「通史」を書くには、歴史家としての蓄積と覚悟が求められる。時代ごとに専門化がすすむ中、一人で書きとおすのは至難の業とされる。近現代の日本史という枠を制約してもその難しさは変わらない。本書『近現代日本史との対話 【幕末・維新-戦前編】』(集英社新書)は、日本女子大教授の成田龍一さんが、「システム」という観点から近現代の日本史を叙述したユニークな試みである。

 冒頭、成田さんは「国家としての日本が辿ってきた道筋」として多くの「通史」が書かれてきたが、まったく違う方法論で書くことを宣言している。

 人と人とのつながりをつくり出すシステムとそのもとでの人びとの経験を「通」にあたるものとしている。

近代、現代、現在の3システム

 具体的には3つのシステムが近現代日本史にあるとする。システムA「近代」、システムB「現代」、システムC「現在」であり、さらにそれぞれ二分される。

 システムAⅠは、幕末・維新の国民国家形成であり、システムAⅡは帝国主義であり、日清戦争から昭和恐慌までの時期を含む。

 システムBⅠは恐慌への対応から始動し、総力戦体制から戦後も1955年の自由民主党結党による五五年体制まで続くとみる。

 システムBⅡは経済成長を目標とした動員体制で、73年のオイルショックまで続く。

 その後、大量生産・大量消費のシステムは維持できなくなり、新自由主義のシステムCⅠに突入。95年の阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件を契機にシステムCⅡあるいはまったく異なるシステムD になるかは分からないという。もちろん、分類して終わりではない。以上が本書の前提であり、まえがきにあたる。

 第一部の幕末・維新はペリー来航と直前の南部藩での百姓一揆から始まる。ペリー来航によってシステムAⅠが始動する。日本は国際法と資本主義という、新たな世界の体制に組み込まれる。

 この後は、一見、日本史の教科書のような記述も続くが、「システムAⅠへの対抗は、あらたな状況をもつくり出します。政府は、かつては黙認していた一揆に対し、強硬姿勢で臨みます」とか、「システムAⅠ内部の路線対立が見られるのです。その衝突は、一八七三年に征韓論争となって現れます」というような「システム」を用いた記述は新鮮で、わかりやすい。

 ここでは、紹介の都合上、システムの分類について書いたが、個々の叙述も面白い。たとえば、「文明化のもとでモダニズムが進行するなか、そこに同調できず、反発を持つ人びとが存在します」として中里介山『大菩薩峠』(1913-41年、未完)に言及し、モダニズムに反発し怨念をもつ分厚い層が存在したこと、戦前のテロリストの青年へと筆を進めるあたりはうまいと思った。

 戦後歴史学は政治制度と社会運動、その後流行した「民衆史研究」においては、「私」と「生活」に着目してきたが、成田さんは「システム」そのものが大きく変わろうとするいま、「システム」に着目するのが有効だという。

 成田さんには『「大菩薩峠」論』(2006年)という本がある。机龍之介が主人公の単なる剣豪小説という見方を排して、「大日本帝国」の民衆像などすべてが盛り込まれていると論じた画期的な著作だ。その成田さんが到達したのが「システム」という視点というのが興味深い。

 本書【幕末・維新-戦前編】は、「第三部 第一章 恐慌と事変」で終わっており、続篇の【戦中・戦後-現在編】は2月中旬に刊行予定。95年は日本の現代の転換点と言われてきたが、成田さんがどう「現在」以降を分析するか、楽しみだ。   

  • 書名 近現代日本史との対話 【幕末・維新-戦前編】
  • 監修・編集・著者名成田龍一 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2019年1月22日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数新書判・494ページ
  • ISBN9784087210644

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