春はウォークの季節。あちこちでウォークがらみの催しが開かれている。イベントによっては何万人もが集まるから大混雑だ。
本書『にっぽん地図歩きの旅 古道、旧道、旧街道』は、普通のウォークには飽きた人にお勧めの一冊。「古道、旧道、旧街道」をひっそりと、静かに楽しみたい人向けだ。
著者の堀淳一さん(1926~2017)は地図とウォークの業界では超有名人。大御所、元祖と言えるかもしれない。多数の著書がある。北海道大学理学部の出身で教授を務めた。
てっきり地理学者だと思っていたら、専門は理論物理学だったという。『物理数学』(共立出版、1969年)、『エントロピーとは何か 「でたらめ」の効用』(講談社ブルーバックス、1979年)なども出していることを知った。
その一方で、子供のころからの地理好きがこうじて、多数の地図や旅の本も出版。72年に『地図のたのしみ』が日本エッセイストクラブ賞を受賞。80年には早々に退官して趣味の世界に本腰を入れたというユニークな経歴の人だ。
本書はその堀さんが、あちこちを歩いた記録だ。日本列島全域を歩いたという意味では生前、おそらく最後だろう。本書で実際に歩いた時期は、2003年から09年まで、堀さんの年齢で言うと、70代後半から83歳に相当する。2万5千分の1地図を持って、余り知られてない道を、友人たちとのんびり無理をせず。
全体は6章に分かれている。「旧街道・歴史古道を歩く」「海岸風景を楽しむ」「峠越えの道をゆく」「湿原の木道を歩く」「国道旧道、鉄道廃線跡を歩く」「地形のおもしろさを見にゆく」。合わせて35か所の道が紹介されている。地図や、写真も付いている。「1時間で2キロ」の歩行ペースをもとに所要時間が示されている。行きは歩きだが、帰りはバスの場合も多く、配慮が行き届いているので高齢者にはうれしい。
九州をのぞいて、北海道、本州、四国の全域に及ぶ。東京に住んでいる人なら、「奥多摩のむかしみち」「千葉・養老川左岸」など、関西に住んでいる人なら「奈良・静寂の杉林をゆく石だたみの路」などが気になるだろう。
「まえがき」に当たる部分で、堀さんのかなり後輩にあたる地図研究家の今尾恵介さんが丁寧な紹介文を書いている。それによると、堀さんは「誰も行かないような道ではあるが気持ちよく歩け、しかも初心者でもひどい目にあわない程度の道」を探し出す達人だったようだ。
ウォーク好きの人は、改めて本書を手に、ブームを切り開いた先駆者の足跡をたどってみてはいかがだろうか。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?