「秘島」とは何か。本書『秘島図鑑』(河出書房新社)の著者、清水浩史さんは次のように定義している。絶海の小さな島。島の姿や形が個性的。一般の交通機関がなく、行こうと思っても簡単には行けない。住民がいない。忘れてはいけない歴史を秘めている。
このような条件のいずれか、またはすべてを含むものを「秘島」としている。本書は「本邦初の行けない島ガイド」だという。
日本には約6800の島があり、大半は無人島。そのなかでも、秘島が多いのは、東京の南の小笠原方面や、鹿児島の南や沖縄方面だ。一時は人が住んでいたり、入植者がいたりして開拓や産業をおこそうとしていた島もある。のちに諸事情で住民や業者がいなくなり、無人化した島も少なくない。漂流者がたどりつくことで有名になった島や、流刑地だった島もある。
本書をぱらぱらとめくって気づくことがある。一つは外国人が発見した島が意外に多いこと。南硫黄島は1543年、スペイン船が発見し、1779年、イギリス船がサウスアイランド島と命名。日本領になったのは1891年。沖大東島も1543年、スペイン船が発見、1807年、フランスの軍艦によって「ラサ島」と命名され、1900年、日本に編入。西之島は1702年、スペイン船が発見、「ロザリオ島」と命名。このほか硫黄島、南鳥島、沖ノ鳥島、北硫黄島なども軒並みスペイン船の発見だ。大航海時代のスペインの威力を痛感する。
もう一つはアホウドリ。元々は多くの島に多数のアホウドリが生息していたが、羽毛目的の乱獲で数百万羽が捕殺され、絶滅、もしくは絶滅寸前になったという。
著者の清水さんは1971年生まれ。早稲田大学政経学部卒。在学中は早稲田水中クラブに所属、ダイビングインストラクターの資格を取り、国内外の海と島の旅を続けている。テレビ局勤務を経て東大法学部の修士課程を修了、博士課程中退という変わり種だ。現在は編集者・ライターだという。
本書は31の「秘島」について、おおむね見開きで歴史や文化を紹介している。その解説が良くまとまっており、しかも味わい深い。多数の参考文献のエッセンスが手際よく紹介されている。たとえば、北硫黄島で見つかった約2000年前の遺跡の話。石斧や土器はマリアナ諸島で見つかったものと類似し、ミクロネシア系の文化の痕跡がうかがえるという。八丈島や小笠原というと、つい本州とのつながりを軸に考えてしまうが、はるか南からの「海上の道」の可能性も指摘している。
日本人はしばしば縄文型の移動人間と、弥生型の定住人間に分けられる。前者は最近、「ノマド人間」などとも呼ばれる。「あやしい探検隊」として国内外の辺鄙なところを旅する椎名誠さんなどが典型だが、清水さんも間違いなくその一員だろう。弥生型の書斎派人間でも、好奇心が旺盛な人は少なくない。本書で紹介されているのは「行こうにも行けない島」なので、GWの空想旅行用に打ってつけだ。類書に『絶海の孤島』(カベルナリア吉田著、イカロス出版)などもある。
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