「終着駅」という日本語が一般化したのは1953年の米伊合作映画「終着駅」が公開されてからだという。巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督による恋愛映画の名作だ。
舞台になった終着駅はローマ中央駅(テルミニ駅)。日本でいえば東京駅みたいなものか。「テルミニ駅」というシンプルな原題を、ままならぬ男女の恋愛と重ね合わせて巧みな邦題にした。
本書『昭和の終着駅 中国・四国篇』(交通新聞社)に登場する終着駅は、デ・シーカ作品のようにロマンに満ちたものではない。文字通り、「行き止まり」の駅であり、そこに「昭和」と付けば、さらにレトロ感、うら寂れたエレジーが漂う。実際、登場する駅の多くは、もはやなくなっている。往時の写真が掲載されてはいるものの、写真説明では「廃駅」と記されている。追憶、ノスタルジーの世界だ。
中国地方では同和鉱業片上鉄道片上駅、国鉄若桜線若桜駅、国鉄三江南線口羽駅、下津井電鉄下津井駅など20駅、四国では国鉄内子線(旧)内子駅、国鉄牟岐線牟岐駅、伊予鉄道郡中線郡中港駅など15駅が紹介されている。名前を聞いただけではどこにあるのか、想像もつかない路線や駅名が少なくない。それぞれに昭和40~50年ごろの懐かしい駅舎や線路、列車や電車の写真がカラーで掲載されている。なぜつくられてどう利用されたか、その後どうなっているかについて詳しい説明がある。
近年激増しているという鉄道ファンが見れば、感動のあまり涙してしまうかもしれない。この写真の時代にタイムトリップして、自分も写真を撮りたいと大コーフンすること間違いなしだ。
写真を撮影しているのは、安田就視さん。1931年生まれ。日本画、蒔絵、彫刻などを学び、のちにカメラマンに。長年、消えゆく昭和の鉄道、SL、私鉄など全線をオールカラーで撮影。『日本の蒸気機関車東・西日本編』(東京新聞出版局)、『関東・中部写真の旅』(人文社)などの写真集がある。本文は鉄道ジャーナリストの松本典久さんが担当している。
本書は3年前から刊行されている交通新聞社の『昭和の終着駅』シリーズ(関東、関西、東北、北海道、北陸・信越、中部・東海、九州) の完結編となっている。
かつては地域の足となり、通勤通学、地元の経済を支えてきた終着駅。なお残るいくつかの駅では、逆にその希少性を軸に、地域の活性化、町おこしにつなげようという動きもあるようだ。平成25年から「終着駅サミット」というのが定期的に開かれており、第5回の今年2月には中四国では初めて、JR可部線の終着駅「あき亀山駅」を抱える広島で開催された。
さらに第6回が11月10、11日、三重県いなべ市北勢町阿下喜を主会場に開催される予定だ。三岐鉄道北勢線の阿下喜駅と同三岐線の西藤原駅という二つの終着駅がある地域の特徴をアピールするという。風雪に耐え、幾多の困難を乗り越えて生き残った終着駅はなかなかしぶとい。「頑張れよ」と声をかけたくなる。全国を巡る映画といえば「寅さん」シリーズだが、日本の終着駅シリーズも可能ではないか。ひょっとしたら、もう登場しているのかもしれないが・・・。
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