読むべき本、見逃していない?

35年前に書かれていた『不死身の特攻兵』

改訂版 つらい真実

 気のせいか、このところ特攻隊関係のノンフィクションが目につくような気がする。トーンは似ていて、何かと美化されてきた特攻隊について、「負の側面」を改めてあぶりだす傾向が強い。『改訂版 つらい真実: 虚構の特攻隊神話』(同成社)もその一つだ。類書と異なるのは、本書は「改訂版」とあるように、かなり前に出た原著の再刊ということだ。

「佐々木伍長」が登場

 著者の小沢郁郎さんの名前は、2017年に発売されてベストセラーになった『不死身の特攻兵――軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)に出ていたので記憶している。たしか特攻隊攻撃が、実は余り敵軍にダメージを与えていなかったということを説明するくだりで、小沢さんの原著の記述が引用されていた。

 1983年に出た本なので、そのままにしていたのだが、最近、改訂再刊されていることを知り、手に取ってみた。そこで、いくつか発見があった。

 一つは、「佐々木友次伍長」について。鴻上さんの『不死身の特攻兵』の主人公だ。9回出撃して9回生還した。その理由は佐々木伍長が「特攻しろ」という上官の指示に従わず、爆弾を落とすことにこだわったことによる。何度も出撃させられるのだが、佐々木伍長はそのたびに帰還する。

 鴻上さんは佐々木伍長のことを、2009年に刊行された『特攻隊振武寮』(講談社)で知ったと書いていた。そこからさらにさかのぼって本書の原著を参照したのだろう。

 改めて本書を見ると、すでに3ページにわたり佐々木伍長のことが出ている。佐々木伍長が属し、陸軍の特攻隊の第一陣となる鉾田飛行団では「特攻攻撃」について、相当の抵抗があったことも書かれている。飛行団の団長自身が、「体当たり部隊の編制化は士気の保持が困難で統御に困り、かえって戦力が低下するだろう」と漏らしていたことが記されている。

水上特攻についても早々と記述

 もう一つは、水上特攻艇について早々と報告されていること。海軍と陸軍で似たような水上艇が製造され、海軍は「震洋」、陸軍は「マルレ」と呼ばれた。全長6メートルほどの体当たり用のモーターボートだ。存在は極度の機密となっており、戦後30年を経ていたにもかかわらず原著の執筆当時はほとんど世間に知られていなかった。著者も正確な記述に苦労したと振り返っている。

 水上特攻については最近、ノンフィクション作家の豊田正義さんが『ベニヤ舟の特攻兵――8・6広島、陸軍秘密部隊レの救援作戦』(角川新書)で詳しく書いている。ここでも、戦時中から秘密にされ、戦後も日陰のままで、防衛庁の戦史叢書第八十一巻の中でもわずか1ページ半にしか記述がないと指摘されている。

 「震洋」については、21世紀になって元隊員が書いた本の中にも少し出ている。2002年刊の『特攻――自殺兵器となった学徒兵兄弟の証言』(新日本出版社、岩井忠正、岩井忠熊著)だ。戦後、歴史学者となる忠熊さんが震洋要員だった。

 これらに先行しているのが本書の原著だ。著者の小沢さんは1925年生まれ。高等商船学校航海科卒業。戦後、東京大学文学部西洋史学科卒業。公立高校教諭を経て著述業になり、軍事史を研究した。

 「六歳で満州事変、一二歳で日中戦争、一六歳で太平洋戦争、二〇歳で敗戦、これが私の前半生である。...昭和二〇年には海上にあって戦闘の一端にまきこまれていた私は、特攻隊たることを自他に誓っていた・・・多くの友人・知人が死んでいた。とくに戦争末期の特攻隊員として失われた者の多くは、私の年齢の上下三年に集中していた」

ひとまとめに美化しない

 死を強いられた仲間たちに代わって、「特攻」の全容解明に挑んだのが本書といえる。執筆当時はまだ、戦争を推進した指導者層が多く生きていた。特攻隊について、マイナス面を書くことがなかなか難しかったことがうかがえる。

 「『体当たり特攻隊』は、それを許可し、推進し、戦術として実施した軍上層部なしにはありえなかったのである。体当たりをした者とともに、させたものがいたのである・・・両者を特攻関係者などとして同列に論ずることはできない。責任の軽重が違いすぎるのである」。

 「純粋」「祖国への愛」などと特攻をひとまとめに美化することは、実は軍上層部の責任を覆い隠すことにつながるというのが小沢さんの主張だ。そして、「体当たりは技術的にどのような難点を持っていたか」「有効だったか」「体当たりをさせた人たちの戦後における自己正当化の事例」「軍人はいかにウソをつくか」などの視点から、「特攻」を洗い直す。

 著者は昭和21年、フィリピンからの帰還船で、一群の兵士たちの会話を耳にした時のことを記している。戦争末期、たぶんフィリピンでのことと思われるが、一機の特攻機が離陸しきれずに滑走路の先に突っ込んで自爆した。富永第四航空軍司令官以下幕僚の眼前だった。その時のことを思い起こして、帰還船に乗り合わせていた1人の兵士が叫ぶように言った。「どうせ死ぬならよ、富永たちに突っ込んだら本望だったろうになあ」。同感の声が渦巻いたという。

 小沢さんは1984年に亡くなっているが、自著が今なお引用され、再刊されることについて感慨もひとしおだろう。

  • 書名 改訂版 つらい真実
  • サブタイトル虚構の特攻隊神話
  • 監修・編集・著者名小沢 郁郎 著
  • 出版社名同成社
  • 出版年月日2018年8月 5日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・223ページ
  • ISBN9784886218025

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