オーボエは管楽器の中では息が余る楽器だという。つまり余力を残して長く吹き続けられるということだ。オーボエ奏者の茂木大輔さんのベストセラー、『オーケストラ楽器別人間学』もまた息が長い。1996年に単行本として出版され、2002年には新潮文庫に。そしてこのたび中央公論新社から改めて「決定版」の文庫となった。足かけ20年以上も売れ続けているロングセラーだ。
タイトルがすべてを語っている。オーケストラで使われている様々な楽器別に、奏者のタイプを描いたものだ。どんなヒトがどんな楽器を選ぶのか。フルートやオーボエなどの管楽器、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器などについて「人間像」が語られる。
「オーボエ奏者」は「演劇少年の突然の変身」、「チェロ奏者」については、「運命の決め手は父から渡された一枚のレコード」という具合にちょっとしたドラマ仕立てで紹介し、奏者と楽器との出会いと、その後の人生を際立たせる。
つづいて、「楽器別人格形成論」に移り、「いかなる楽器がいかなる性格をつくるのか」という分析になる。人は経験によって人格がつくられるといわれるが、本書は楽器がつくる人格をあぶりだす。フルートは「冷たさも軽みもそなえた貴族的エリート」、サクソフォンは「一点こだわり型ナルシスト」、チェロは「包容力とバランス感覚にすぐれた、揺るぎのない人間性」をつくるというのだ。
本書が「決定版」と銘打っているのは、本文を大幅に修正し、再構成していることによる。第3章の「オーケストラ周辺の人々学」は完全書下ろし、また第4章の「有名人の架空オーケストラ」についても「平成30年バージョン」を掲載している。したがって、過去の本書を読んでいる人にとっても、「決定版」では初めて目にする部分も少なくない。
とりわけ興味深いのが「平成30年版」の架空オケだろう。この有名人がオーケストラに加わるとしたら、どんな楽器がよく似合うのか、なぜそうなのか。ここは茂木さんの音楽観、人物観察力が全面展開する。
トップに出てくるのは福山雅治さん。「コンサートマスターか、第一ヴァイオリンのトップサイド」と明快だ。納得する人が多いのではないか。西島秀俊さんもやはりヴァイオリン。ただし、「有名弦楽四重奏団の第二ヴァイオリンという、人類の仕事の中では最も困難な仕事に従事」という注釈が付く。これまた、西島さんの役柄に重なる部分がある。
こうして櫻井翔さん、綾瀬はるかさん、石原さとみさんら今を時めく有名人が次々と登場する。同じ企画は前回の02年版の文庫本でもやっているのだが、登場人物は武田鉄矢さん、ユーミンさん、タモリさんなど、さすがに時代を感じさせる。この部分をリニューアルしないと、新装版ではキツイと編集者が思ったのだろう。
本書でもう一つ、加筆されているのは「楽器別人格形成論」。あらたに「吹奏楽の場合」という項目が立っている。その楽器を吹奏楽で使用している人がどんな人格になるかという話だ。この辺りは明らかに近年の吹奏楽人気の盛り上がりを意識したものだろう。巻末には漫画も付いている。
クラシック音楽のハードルは高いが、全日本吹奏楽コンクールには1万を超える団体が参加している。中高生が多い。先の「平成30年版」の有名人や「吹奏楽重視」、漫画などは本書が若い読者も重視しているという証だ。それはとりもなおさず、茂木さんが、単に興味本位で本書を書いたということではなく、少しでもクラシック音楽ファンを増やしたいという切なる思いで書いていることの証でもある。
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