ひところ「仏像ガール」が話題になったが、本書『東京から日帰りで会える 仏像参り』(幻冬舎)の著者、田中ひろみさんは「仏像イラストレーター」。お寺に出かけて、そこで見た仏像をイラストで描いて紹介する。いわばカメラマンいらず。メディアにとっては重宝な人だ。そのせいか、朝日、毎日、読売など全国紙でもよくお名前を拝見する。仏像案内役の女性では、いま最も引っ張りだこの人だ。
本書は、首都圏に限定した仏像案内。田中さんによると、東京近郊には国宝や重要文化財の仏像が約300もあるのだという。その中から「個性的」と思われる93仏を選んで紹介している。もちろんイラスト付き。それぞれの所在地、アクセス。お寺の電話や拝観可能な時間、拝観料などのデータも付いており、お出かけの時は便利だ。
中でもイチオシといえるのは、やはり静岡・願成就院の仏像だろうか。JR伊豆箱根鉄道の韮山駅か伊豆長岡駅から徒歩15分。今は伊豆の国市というところにある。鎌倉幕府初代執権の北条時政が建立した。ここには運慶作の仏像が5体もある。ガラス越しではなく、直に拝顔できるのだ。本書では4ページにわたって紹介されているが、「国宝」という文字がずらっと並んで壮観だ。東京国立博物館で2017年に開催されていた「運慶展」にもお出まししていた名品たちだ。
日本人なら誰でも知っている運慶。しかし世界的に見ても、ミケランジェロ以前の彫刻家で、今もしっかり固有名詞で名を残しているのは運慶ぐらいかもしれない。それをまとめて見られるのだから、大変ありがたい。
仏像というと、普通は奈良や京都の有名なお寺を思い浮かべる。お寺自体の歴史の古さ、誰の命で建立されたか、建物も国宝か、など仏像本体以外の総合的な判断基準で平城京・平安京の古都の仏像が優位に立つことは否定できない。
しかしながら、個別の仏像にはまた別の味わいがあることも確かだ。先ごろ東博で開かれていた「国華展」でも、あまり知られていない重文の仏像の中に、異様な迫力を持つものがいくつかあった。田中さんは、仏像ツアーの同行講師もしており、東京近郊のお寺にもしばしば出かけている。実際に自分の足と眼で確かめているから、自信をもって紹介できる。いわばプロによる「穴場案内」だ。
ホームページを見ると、田中さんはもともと看護師。病院で勤務していたこともあるという。若い時から絵画の全国コンクールで入賞するなど、絵心があった。小説家・小嵐九八郎氏のアシスタントを経て独立したという。これまでに約80冊の本を書いており、そのうち約20冊が仏像関係だそうだ。本書の仏像イラストには細かな注釈も付いており、理解が深まる。仏像は、実際にお寺に行っても、暗くてよく見えないことが多い。本書を持参すれば、謎解きの参考になりそうだ。
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