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革命論から山口百恵論まで、君は平岡正明を知っているか?

平岡正明論

 平岡正明(1941~2009)という著述家がいたことを、いまどれくらいの人が知っているだろうか? 残した著作は約120冊。犯罪論、革命論から山口百恵論、ジャズ、落語とその関心領域は広く、全体像がつかみにくい物書きだった。

 没後10年を迎えるにあたって、ようやく待望の『平岡正明論』(日販アイ・ピー・エス)が刊行された。著者の大谷能生氏は72年生まれの音楽家であり批評家でもある。平岡の最初の著作『韃靼人宣言』(現代思潮社)が出たのが64年、もっとも影響を与えたと思われる『あらゆる犯罪は革命的である』(現代評論社)が書かれたのが72年、さらに「山口百恵は菩薩である」という、もっとも有名な平岡の言葉と同名の本が出版されたのが79年であることを思えば、平岡の思想は評者よりもはるかに若い世代にも伝わっていたことになり、慶びにたえない。

 実に間口の広い書き手であったことを反映して、本書の構成にも工夫が感じられる。まず平岡の活動を時系列に沿って36段で論じる「本章」、そこで触れることのできなかった著作36冊を解説する「案内」、さらに彼が残したことば36発を並べた「マチャアキズム・テーゼ」の3本柱からなる。合わせると108になる。この数字は平岡が愛してやまなかった『水滸伝』に登場する豪傑たちの数に一致し、大谷氏のオマージュでもあろう。

 引用したい箇所が山ほどあるが、今年(2018年)何かとスポットライトを浴びている西郷隆盛を論じた『西郷隆盛における永久革命』(新人物往来社)に触れた「本章」から。

「西郷隆盛は安政の幕府反動政策期に奄美大島に流され、そこで黒糖地獄に苦しむ琉球諸島の人民の魂に触れた。薩摩による砂糖の独占と密貿易、つまり琉球植民地経営が生み出す超過利潤が、維新遂行のための資金源のひとつである。逆説ではなく、維新直前に琉球にいたからこそ、西郷は倒幕の指導者となれたのだ。西郷は琉球で植民地経営の実態に触れ、『魔界転生』して、幕府を倒す決意を固めた」

 「明るい陰謀家」と言われた平岡独特のアジテーションの一端が伝わってくる。

音楽について多くの著作残した

 音楽家でもある大谷氏になぜ平岡の文章が刺さったのか。巻末の著作リストを見て納得した。『ジャズ宣言』『戦後日本ジャズ史』『日本の歌がかわる』『歌謡曲みえたっ』『国際艶歌主義』『美空ひばりの芸術』『新内的』『浪曲的』『三波春夫という永久革命』......など書ききれないほど多くの音楽についての著作があるのだ。

 大谷氏は「どのような状況にあっても、民衆は常にモノとカタリの両面で生きる。さまざまな『芸能』に感応することを通して、平岡正明は、二〇世紀の後半においても最大最長の規模でこのような物語を生き切ることに成功した稀有な人物だったと言えよう」とその生涯を総括する。氏のような絶好の書き手を得て、泉下の平岡も満足することだろう。

  • 書名 平岡正明論
  • 監修・編集・著者名大谷能生
  • 出版社名発行 Pヴァイン 発売 日販アイ・ピー・エス
  • 出版年月日2018年5月30日
  • 定価本体価格2400円+税
  • 判型・ページ数四六判・293ページ
  • ISBN9784907276973
 

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