サッカーW杯ロシア大会。連日、熱戦が繰り広げられている。そのサッカーで、ある種のオフサイドは、レフェリーをきわめて誤審に導きやすい――。なんともまあショッキングな話だが、心理学ではよく知られた「定番知見」だ。われわれが経験する日常は、心理学的、脳科学的なメカニズムによって背後から組み立てられている。27のトピックを取り上げ、それらを分かりやすく紹介したのが本書『日常と非日常からみる こころと脳の科学』(コロナ社)だ。
オフサイドはサッカーの重要なルールだ。攻撃側の選手が、相手ゴールから守備側2人目(オフサイドライン)よりもゴール寄りにいる味方選手にパスすることを禁じている。誤審が多く、判定が勝敗を分けることもしばしばだ。サッカーW杯世界10大誤審(「FIFA FEVER FIFA創立100周年記念DVD」の特典映像)には、イタリア・トンマージのゴールデンゴール(2002年 対韓国)やカメルーン・ロジェ・ミラのゴール(1982年 対ペルー)の2件がランクインしている。
誤審を招きやすいオフサイドについて、本書が解説しているのは「フラッシュラグ効果」のトピックだ。この効果は、副審から見て手前に止まっている守備側選手、その向こう側で攻撃側がオフサイドラインを越えて駆け上がる場面で現れる。静止しているものと動いているものがオフサイドラインで並んだ瞬間、動いているものの方が先に進んでいるように見える。オフサイドではないのに、そうとしか見えない――という錯覚だ。
現象は確認されたが、原因の究明にはまだ成功していない。「過去の動きから現在の位置を予測して視知覚を形成しているからだ」とか「動いているものに対する知覚が、静止しているものへの知覚よりも、早く意識に上るから」「予測ではなく事後測だ」などとする説が唱えられている。
一方、この錯覚を解消することはできるのだろうか。錯覚自体を消すことは、きわめて困難だ。「非常に頑固」な現象なのだそうだ。それでも、eラーニングなどを審判に行うことで改善させることができる。判断の難しい場面の映像を見せてジャッジさせた後に、正答を教える訓練で、これを繰り返す。錯覚することを念頭に置いた上で、判断を調整する。言ってみれば「上手にサバを読む」ようにする、というわけだ。
ロシア大会からビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が導入された。誤審で勝敗が左右される事態は大幅に減るに違いない。といっても、VARでしばしばゲームがストップされてはたまらない。審判が正確に判断していれば、ゲームはそのまま流される。審判のサバを読む技術はVARの時代でも、その重要性は変わらないだろう。
本書は静岡大学の宮崎真さんと北海道大学の阿部匡樹さん、九州大学の山田祐樹さんが企画して編集された。3人は身体教育学や心理学の研究者だ。まえがきにあるように、身近な経験を解説することを通して、心理学や神経科学の面白さをアピールすることを目指したという。
フラッシュラグ効果のほかに「交通事故の瞬間はスローモーションのように見えた」「しっぺ返しの応酬はエスカレートする」「わかっていても止められないギャンブル」などについての研究が並んでいる。いくつかのトピックを自分も経験したという人は、きっと多いはずだ。後半では、「脳活動からこころを可視化する技術」や「人工知能(AI)」にまで触れられている。
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