大阪北部で6月18日に発生した震度6弱の地震で、被害を報告するツイッターに私鉄電車が脱線したとか、シマウマが脱走したと思わせるウソの書き込みがあり、一時は拡散する事態になった。不確かな情報を受けての思い込みか、愉快犯的な行為なのか。災害時のこうしたデマは新たな被害を生む可能性がある。
5人の弁護士が監修者、著者に名を連ねた本書『その「つぶやき」は犯罪です』(新潮社)は、SNSの普及で誰もが不特定多数に向けて情報発信できるようになったことを受けて4年前に刊行されたもので、軽い気持ちのツイートで罪に問われることがあると警告している。2年前の熊本地震では「動物園からライオン放たれた」とつぶやいた20歳(当時)の会社員が威力業務妨害容疑で逮捕されている。
SNSの進化、普及などインターネットの双方向性が向上して発信ツールとして利用が増えているにもかかわらず、それに比べて「著作権」や「肖像権」「名誉権」などについての法律に対する知識や意識が欠けていたり、薄かったりするという。熊本地震のケースの「威力業務妨害容疑」では、容疑者の頭のなかには「?」が浮かぶばかりだったかもしれない。
営利ではないから問題なかろうと、自分の好きなアーティストの新曲の歌詞全部をブログに書き込んだ音楽ファン、匿名掲示板に「悪ノリ」で、あるブロガーについて裏付けのない悪評を投稿したネットユーザー、やはり匿名掲示板で選挙の際に自分の支持する候補者の名を挙げ「この人に投票しよう」と呼びかけた市民――。
本書では、わたしたちが普段やってしまうかもしれない例をあげて「どう思うでしょうか?」と問いかける。
これらはいずれも「違法行為」であり、とくに歌詞や悪評の書き込みは「刑罰が科される『犯罪』にあたる」。法律上、前者は最高で懲役10年、後者は同懲役3年の処罰を受ける可能性があるという。もちろん、紹介されている例は「上限」であり、それらの処罰を受けることはまずないが、金儲けではないから、とか、悪ノリで、とかで許されるものではないのだ。
「金儲けをしていないから...」「他にも大勢がやっているから...」「相手が訴えてこないなら...」という理由づけで「大丈夫」とする言い分や「捜査機関や裁判所が動かなければOK」という思い込みにしか過ぎない主張が、まるで正当かのように掲げられている例がインターネットでよくみられるという。
これらはみんな勘違いなのだが、なかでも現実とのズレが著しいのは「金儲けをしてないから大丈夫」という考えではなかろうか。「他にも大勢...」「相手が...」「捜査機関が動かなければ...」は、わずかながらも罪の意識があるように聞こえるが、非営利の主張はしばしば「善意」とセットになっているのだ。
ここで「アイドルファンAさんの誤解」として紹介されている例によると、このAさん、応援するアイドルグループの新曲がチャート1位になるのを願って、先に引用した音楽ファンと同じく、自分のブログに歌詞全文をアップ。読者から著作権法違反ではないかと指摘されたが、アフィリエイトもないので指摘はあったっていないと反論した。Aさんの目論見通り、ブログの読者のなかにはCDを購入した人がいたという。
本書によると、金儲けしたかどうか違法か合法か、あるいは罪に問われるか問われないかの判断が変わることはほとんどないという。「他人の音楽や動画を公開するとき、それが無料公開であっても、無許可で行えば権利侵害になります。それが善意からであろうが、結果として著作者の宣伝になろうが、関係ありません」。
「金儲け」がキーファクターでないのは他のケースも同じ。他人を誹謗中傷する「名誉棄損」の場合でも、そうした記事を発信、公開すれば、それが有料か無料かは本質的な問題ではない。つまり「限定」とか「クローズド」とかは、逃げ道にはならないのだ。
企業の運営でしばしば「コンプライアンス」がとりざたされるが、インターネットが身近になればなるほど、個人レベルでも「法令遵守」の精神が一層求められている。
本書は、序章で「『加害者』にも『被害者』にもなる時代」で法律を知る大切さを述べ、第1章で「人は知らぬうちに『加害者』になる」、第2章で「人はある日突然『被害者』になる」として、だれもがいずれの側にもなる可能性を論じる。子どものネット利用をめぐってはしばしば、被害者になる懸念がとりざたされるが、加害者になることがあり得ることを保護者が心にとめるよう求めている。
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