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帝国、オークラ、ニューオータニがホテル御三家と呼ばれる訳

ホテル御三家

 日本のホテル御三家と言えば、帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニを指す。本書『ホテル御三家』(幻冬舎新書)は、その歴史をたどりながら、国内外の旅行者から愛される理由を探った本である。

 著者の山川清弘さんは、東洋経済新報社記者。「東洋経済オンライン」で「あなたが知らない 東京ホテル戦争の舞台裏」を連載、現在『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長。著書に『1泊10万円でも泊まりたい ラグジュアリーホテル 至高の非日常』(東洋経済新報社)。

外資系ラグジュアリーホテルより高い評価

 1990年代に外資系ラグジュアリーホテルが東京に相次いで進出し、「新御三家」と称されたが、山川さんは御三家の評価は外資系を上回るとしている。その根拠は世界最大の旅行プラットフォームであるトリップアドバイザーでの評価だ。日本語と外国語での口コミを同社でデータ解析してもらったところ、帝国ホテルは恒常的に6~7割が最高評価の5点な上に、2017年は口コミの8割近くが5点をつけている。「さすが帝国ホテル」というコメントも多いという。オークラ、ニューオータニも基本的に高評価だ。

迎賓館を運営する御三家

 山川さんは、3ホテルを「御三家」に押し上げたきっかけが1970年代からの迎賓館の運営にあると指摘している。1974年のオープン時にホテルオークラが運営を受託し、翌年から帝国ホテル、ニューオータニの三者持ち回りとなった(現在は他のホテルも受注)。

 「海外の賓客をもてなすためにプロトコル(外交儀礼)を守りつつ、最高水準のサービスを提供することで磨かれたノウハウがホテル運営にもフィードバックされている」

 そうした蓄積から、サミットや皇室行事の際に各国首脳が利用するホテルの代表格となっている。

 今年1月2日にNHKBSプレミアムで放送された「即位の礼 晩さん会 密着・ホテルマンの1か月」を評者はたまたま見て、その凄さに度肝を抜かれた。即位の礼の翌日(2019年10月23日)、世界からVIP600人を招いて晩さん会が行われた。舞台はホテルニューオータニ。晩さん会を任されたのは平成に続いて二度目だった。

 全国の系列ホテルから集められた350人のウエイターがプロトコルに従ってサービスをするのだが、アレルギーや宗教上の理由などによる特別対応料理のリクエストが直前になっても確定しない状況の中で、料理人とともに機敏に対応する様子が描かれていた。

 こうやって鍛えられ、結婚披露宴やパーティーなど日常の「おもてなし」に生かされているのだろう、と思った。

大倉家が3ホテルにかかわる

 本書は、歴史が古い帝国ホテルには前後編の2章、ホテルオークラとホテルニューオータニにはそれぞれ1章を割いて、設立の経緯、基礎を築いた経営者、フランス料理の味を確立した料理人、これまでのリニューアルなどを「人」に焦点を当てて記述している。

 設立順に、帝国ホテルを長男、ホテルオークラを次男、ホテルニューオータニを三男と比喩しているが、ある一家が3ホテルにかかわっているのが興味深い。大倉家である。

 1837年、現在の新潟県新発田市に生まれた大倉喜八郎は、神田で大倉鉄砲店を開業、戊辰戦争で巨万の富を築いた。その後日本人による初の貿易商社、大倉組商会(のちの大倉商事)や大倉土木組(現・大成建設)を創業、渋沢栄一とともに帝国ホテルの設立にかかわった。1890年11月3日、開業初日の宿泊客はわずか5人だったという。

 フランク・ロイド・ライト設計のライト館(新本館)が完成した1923年に喜八郎の息子、大倉喜七郎が初代社長に就任する。この年、9月1日、ライト館の開業披露の祝宴が予定されていたが、関東大震災が起こる。大規模なダメージがなく、復興の拠点となった。

 第二次大戦後、帝国ホテルは接収され、大倉財閥は解体される。喜七郎も帝国ホテル会長を退任する。

 終戦直後から帝国ホテルを凌駕する国際的ホテルの建設を構想していた喜七郎は賛同者を募り、虎ノ門の大倉邸跡地に日本の伝統美術の様式を生かした建築により、1962年ホテルオークラを開業する。

 元力士出身のベンチャー起業家、大谷米太郎が東京オリンピックに来日する外国人観光客のために東京都から頼まれてつくったのがホテルニューオータニである。門外漢の大谷はホテルオークラを開業したばかりの大倉喜七郎に助言を求めた。大成建設が工事をする条件で喜七郎がアドバイスした。1964年の五輪に間に合うよう、通常3年の工期を17か月に短縮してつくられた。

 著者が、御三家を長男、次男、三男と比喩したのは、こうしたDNAの継承を意識しているように思えた。

 本書では、創業期だけでなく、その後のリニューアルや経営についても詳しくふれている。オークラは本館を建て替え、2019年にThe Okura Tokyoとして再オープンした。

まだまだ安い単価

 本書によると、世界の大都市の中で、東京のホテル単価はまだまだ安く、また御三家の平均的な宿泊料金は外資系ラグジュアリーホテルを下回っているという。外資系は会員組織が事前予約を下支えしているなど、そのカラクリも書いている。

 新型コロナウイルス感染症がいずれ収束すれば、国内外の観光客が戻ってくる日も近いだろう。

 BOOKウォッチでは、『最強のホテル100』(イースト・プレス)を紹介している。

  
  • 書名 ホテル御三家
  • サブタイトル帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ
  • 監修・編集・著者名山川清弘 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2020年5月30日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・293ページ
  • ISBN9784344985940
 

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