初めて知ったのだが、「3年待ちの料理教室」というのがあるらしい。東京・渋谷の日本料理専門教室「いただきます」。本書『家庭でつくる和食教本――いつもの料理が感動のおいしさに』(朝日新聞出版)の著者、西芝一幸さんはそこで教えている。とても3年も待っていられないという人のために、人気講師のエッセンスを伝えたのが本書ということになる。
西芝さんは1977年生まれ。大阪辻調理師専門学校を卒業後、南紀白浜「ホテル川久」や石川県片山津「ホテルアローレ」で懐石料理を学んだ。韓国ソウル「グランドハイアット」ではスーシェフを務め、帰国後、さらに料理の幅を広げる。もともと人に何かを伝える事が好きだったために講師になることを決意し料理学校に転職――というのが大まかな経歴だ。
本書は類似の料理本と見た目は同じだ。しかし、少し読み始めると違いがあることがわかる。まず掲載されている料理の数。どうも類似本よりもやや少ない気がする。しかも「肉じゃが」とか、「さんまの塩焼き」とか、「豚肉のしょうが焼き」とか、「肉豆腐」とか、「鶏のから揚げ」とか、普通の家でフツーに出てくるお惣菜が目につく。小難しい名前の凝った料理は見当たらない。
一方で、料理の基礎的な理論についてかなり詳しく記されている。「おいしさのコツ」「おいしくならない5つの要因」「おいしい理由を知りましょう」・・・。
「まずは銀シャリに感動しましょう」という項目では、「おにぎりの握り方」についてもレクチャーされている。
類書なら書名が「家庭のお惣菜の作り方」となるところを「家庭でつくる和食」と格調を保つ。しかも「教本」。理論性にこだわる。
西芝さんが強調するのは「レシピ=教本」の大切さだ。「レシピは楽譜と同じです」という。
「プロはどうして料理をおいしく作れるのか、わかりますか? それは目安となるレシピがあるからです」 「プロの演奏家も楽譜を見て音を奏でます。それは料理も同じで、おいしい目安があるからこそ、自分も含めてみんなが笑顔になる料理を作ることができるのです」
西芝さんのモットーは「TTM=徹底的にまねをする」だ。「最初はしっかりレシピをまねてください」。そうすることで「料理の軸」ができるというわけだ。やがてレシピが自家薬籠中のものになれば、見なくても作れるようになるだろう。
楽譜とのアナロジーで思い出したことがあった。指揮者の小澤征爾さんが若くして頭角を現したのは、驚異的な暗譜力が大きかったという。カラヤンも暗譜力が抜群だった。暗譜しているので目をつぶって指揮をする。しかし、リハーサル中に誰かがミスをすると、ちらっとそっちに顔を向けるので楽団員は緊張したという。
本書の約半分は、調理理論を易しく紹介した読み物だと著者は語っている。読者は教室で教わる生徒と同じように、和食の核心を学ぶことができる。
関連で本欄では『ジビエの歴史』(原書房)、『東京カラダにいい店うまい店』(文藝春秋)なども紹介している。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?