読むべき本、見逃していない?

鉄道車両は大量生産できない手作りの世界

鉄道を支える匠の技

 自動車と鉄道。どちらも日常生活に欠かせない乗り物だが、大きな違いがある。自動車は各メーカーが大量生産しているのに対し、鉄道は鉄道会社が独自に設計し車両メーカーに発注する少量生産ということだ。

ハンマーひとつで新幹線の「顔」叩き出す

 本書『鉄道を支える匠の技』(交通新聞社新書)によると、一度につくる車両の数はきわめて少ない。最少1両、多くても100の単位だという。一つひとつがほぼ手作りの世界になる。本書にはそんな鉄道にかかわる技術の「匠」が紹介されている。

 ハンマーひとつで新幹線の「顔」を叩き出す山下工業所は、日立製作所の鉄道車両工場がある山口県の下松市にある。平らな金床の上で鉄やアルミ合金の板を各種ハンマーでひたすら叩き、伸び縮みさせ、新幹線の先頭部分にあたる三次元の曲面をつくり出す。

 以前、テレビでその作業を紹介しているのを見て、どうしてプレスで成形しないのか、機械化しないのか疑問に思った。本書にその答えがあった。「自動車や家電製品に比べ生産量が桁違いに少ない。1車種で30編成程度がせいぜい。これをプレスでやれば大物だけに金型が何個も必要になり、とても採算が合わない」。さらに「急ぎの飛び込みの仕事などは、金型の心配をしているより、ベテランの職人が叩きだした方がはるかに早い」。

 しかし、「叩き出し」の技術はあまり知られていなかったため、従業員の確保が問題だった。2代目の現社長がアルミ製のチェロを作ったことがメディアで広がり、応募者が増えたという。入社試験は実際に板を叩く姿で決めるというから、名人芸の伝承に新幹線の今後はかかっている。

 著者の青田孝さんは、元毎日新聞編集委員のフリーランスライター。日本大学生産工学部機械工学科で鉄道車両を学び、卒業研究として1年間、当時の国鉄鉄道技術研究所に通ったというから、技術的にも詳しい解説を加えている。

 真空式トイレを開発し7割のシェアを持つ会社、座席のモケット地をつくる老舗の織物会社など20の企業の卓越した技術が紹介されている。

線路際の木を切る技術も

 地方の会社も多い。線路際の危険な斜面での樹木の伐採を可能にしたマルイチは新潟県村上市に本社がある。巧みにロープとウインチなどを使った「ウッドタワー工法」という特殊な工法を開発し、全国で仕事をしている。

 見たことのある光景の写真にはっとした。2018年10月1日、台風24号の強風でJR四ツ谷駅付近の中央線快速の線路上に木が倒れ込み、架線の柱を直撃した。約7時間電車は停まった。同駅を利用している評者もその爪痕に呆然とした。

 本書によると、さらに飯田橋駅にかけて10カ所、倒木の恐れがあることが分かり、試験的な伐採を経て、線路の崖の上ぎりぎりに立つ木を4本切り、同工法の安全性が立証されたという。

 紹介されている会社の中で大企業は、日本製鉄(取材当時は新日鐵住金)だけだ。同社は日本唯一の車輪メーカーなのだそうだ。大阪市の臨海部にある住友金属工業の前身、住友鋳鋼所が1920(大正9)年、それまで海外からの輸入に頼っていた車輪など鉄道部品の製造を始め、1949(昭和24)年、八幡製鉄が車輪製造から撤退してから、国内唯一の車輪メーカーになった。

 高速で回転する金型の上部だけを数度傾けるという「匠の技」が図解付きで解説されている。

 「鉄道おたく」を自認する評者だが、完成した車両ばかりに目が行っていた。本書を読み、鉄道が多くの部品や技術に支えられていることに改めて気がついた。

 本欄では、鉄道を専門とする交通新聞社新書として、『そうだったのか、路面電車』『電車たちの「第二の人生」』などを紹介済みだ。
  • 書名 鉄道を支える匠の技
  • サブタイトル訪ね歩いた、ものづくりの現場
  • 監修・編集・著者名青田孝 著
  • 出版社名交通新聞社
  • 出版年月日2019年6月14日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・239ページ
  • ISBN9784330971193

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