路面電車と言っても、東日本の人にはあまりなじみがないかもしれない。現在、日本で路面電車が走っているのは19事業体あるが、東日本には、札幌市電、函館市電、都電荒川線、東急世田谷線の4つしかないからだ。残りの15は中部日本、西日本に偏在している。
本書『そうだったのか、路面電車』(交通新聞社)は、歴史もさまざまで個性派ぞろいの路面電車の世界をわかりやすく紹介している。「鉄っちゃん」を自認する評者も知らなかった歴史や新しい動きも盛りだくさんだ。
ところで、日本にかつてどれくらい路面電車が走っていたかご存知だろうか? 本書によると、114ということになる。この中には路面電車から出発して普通の電車になった京王電鉄や阪神電鉄なども含まれるが、多くは廃止された。
現在の政令指定都市20市の中で路面電車が走っていなかった都市は、千葉、相模原、浜松の3市だけだ。現在も走っているのは、札幌、京都、大阪、堺、岡山、広島、熊本。廃止されたのは仙台、新潟、さいたま、川崎、横浜、静岡、名古屋、神戸、北九州、福岡の各市だ。さいたま市に路面電車があったことはあまり知られていないかもしれない。明治39年から昭和16年まで、大宮と川越を結ぶ川越電気鉄道(旧西武鉄道大宮線)が路面電車を走らせていたが、昭和15年に川越線が開通し廃止されたそうだ。
地方にも路面電車が数多くあったのは、明治、大正期には電力会社が各地に乱立していたからだ。電力会社を作ってもあまり需要がなく、電気を売るために電車を走らせるという本末転倒のような例が各地で見られた。東京電燈は前橋電気軌道や江之島電気鉄道(現・江ノ電)などを買収して経営し、鬼怒川水力電気社長の利光鶴松は小田原急行鉄道(現・小田急電鉄)を創立した。
こうした歴史は一般の読者にはあまり関心がないかもしれない。ヨーロッパではLRT(Light Rail Transit、ライトレール・トランジット)という次世代型の路面電車が普及し、路線を延ばしているのが潮流だ。
日本では、富山市がコンパクト・シティーをめざすためにいち早く導入した。JR西日本の富山港線を第三セクター(富山ライトレール)がLRT化し、駅を増やし運転頻度を上げた結果、利用者が2~3倍に増加した。富山地方鉄道市内軌道線も都心線を新設し、環状運転を始めた。富山ライトレールとの直通運転も予定している。
また札幌市電も一度廃止された区間を42年ぶりに復活、2015年にループ化を完成した。さらに札幌駅、苗穂駅、桑園駅方面への延伸計画があるという。
路面電車の世界でいま最もホットな話題と言えば、2022年度の開業をめざし、栃木県の宇都宮市と東隣の芳賀町を結ぶライトレールの新設工事が始まったことだ。これまで軌道系公共交通がなかった地域にゼロからLRTを建設するのは日本で初の試みだ。
14.6キロの区間を44分(快速38分)で結ぶ。JR宇都宮駅をスタート、巨大ショッピングモール、宇都宮大学、工業団地、作新学院、テクノポリス、スタジアム、本田技研の工場北門などが沿線にある。慢性的な交通渋滞の解消が期待されている。
第二期として宇都宮駅から西に延伸する計画もある。軌間は1067ミリ。JR線や東武鉄道との乗り入れの可能性も視野に入れているという。反対運動もあったそうだが、LRTの普及は世界的な潮流である。クルマ社会の象徴そのものである自動車メーカー主力工場の門前まで、路面電車が走るというのはアイロニーのようだが、面白いではないか。
本書によると、ほかに岡山市、鹿児島市の路面電車でも延伸計画があるそうだ。
著者の西森聡さんは旅カメラマン。『ヨーロッパ鉄道紀行 15日間で6カ国をめぐる車窓の旅』『そうだったのか、乗りかえ駅』などの著書がある。
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