1990年代半ばから10年間の間に、消費者が選択できる情報量は約530倍になったという。本書『儲かっている会社はいま何を考えどう行動しようとしているのか』(実務教育出版)が引用している総務省の発表資料によるものだが、今はそれからさらに10年が過ぎており、その間のインターネットの進化やスマートホンの普及を考えれば、情報量はさらに激増していると考えられる。企業のなかでもとくに小売業、飲食業、サービス業の会社が現代で「儲かる」かどうかは、この超情報化社会でうまくアピールできるかがカギだ。
本書では、マーケティングコンサルタントの著者が「儲かっている」新進企業16社をピックアップ。東芝など伝統ある大企業が倒れる「21世紀の戦国時代」にチャンスをつかんで確実に利益をだし、さらに成長を続けている経営ぶりを詳細にリポートしている。
取り上げられている企業の成長の理由はそれぞれあるのだが、同業他社との差別化や、特定のニーズを掘り起こしてニッチ市場を開拓を進め、オンリーワンの供給元であることのアピールをうまく消費者に届けられたことが共通している。
いわゆるダイエットをサポートするプライベートジムの「ライザップ」を運営するライザップグループには、この5年ほどの間の成長ぶりに目を見張るものがある。連結売上高は約5倍、営業利益は10倍以上になった。近年はジムのほかにゴルフスクールや英会話レッスンの事業にも進出している。この4月には女優の佐藤仁美さんがCMに登場し、3か月で12キロ以上の減量した姿を披露。1年前のNHK朝ドラ「ひよっこ」のウエイトレス姿との違いが際立つ印象を与えたものだ。
「ライザップはダイエットを『可視化』することで、利用者がダイエットに対してあいまいに感じていた部分を極力減らすことに成功した」と著者。街でこのところ目立つようになっているスポーツジムでは、スタジオプログラムのメニューの豊富さや設備の充実、低価格を強調するが、効果についてのアピールは強くはない。ライザップのアプローチはジム通いを考えている人たちに「このジムは信頼できるのか」など「余計な心配」をするヒマを与えず、さらに「結果にコミットする」とダメ押しして、あいまいさを打ち消したことが共感を呼んだ。
ライザップのダイエット効果が評判になってしばらくしてから、糖質やアルコール摂取が厳しく制限されるのではとネットなどでうわさになり「やはりそんなにあまくはなかったか」と、相当な覚悟が必要と認識されるようになったものだ。佐藤仁美さんのCMやプロモーション動画では、もりもり食べてアルコールもオーケーとアピール。結果ばかりか過程にもコミットする取り組みを映像にして可視化している。
著者はライザップについて、CMにタレントや有名人ばかりでなく、利用者とみられる一般人を採用したことで情報の信頼性を増したと指摘している。
ライザップは結果を保証することで、その他大勢のスポーツジムとの差別化を際立たせオンリーワンであることを浸透させたが、ニッチ市場を開拓して独走を成功させた代表格が、衣類のレンタルで急成長した「エアクローゼット」と、男性向けネイルサロンの「オトコネイル」だ。
エアクローゼットは単なるレンタルではなく、ユーザーの女性が好みのスタイルなどを登録すると、それに応じてスタイリストがアイテムを選んで発送するというもの。料金は月額制で、送料やクリーニング料が含まれる。自分では選ばないようなものが送られてきて冒険心をくすぐられ、またそれが家族の間で、職場でほめられたりする経験をアピール。ユーザーは服にかける費用を節約でき、選んだり買ったりする時間や労力を抑えられ、その一方で、新鮮な喜びや驚きを味わえるという。
著者はさらに、エアクローゼットのビジネスに秘める可能性を指摘する。その一つが「顧客データベースの活用」。衣類の貸し出しを通じて得られた顧客データは、ビジネスの拡大により膨大なものとなり、それを分析することで消費者のニーズが見えてくる。同社にも、同社にかかわるアパレルメーカーにも、成長を加速につながるものだ。
オトコネイルは6年前に、ウェブデザインなどの事業を行っていた会社が多角化の一環として立ち上げた部門としてスタート。店舗は都内だけだが、市ケ谷店に続いて2号店を霞が関ビルに、その後、銀座に、渋谷にと店舗網を拡大している。
ネイルサロンといえば女性向けが「常識」だったが「今の常識は、未来の常識ではない」と著者。たしかにいまで美容院に男性の姿があることは当たり前だ。「男性美容市場は成長の一途。過去を振り返り、時代を考えれば、そのトレンドはこの先も続いていくでしょう。男性美容市場において、今はまだニッチなビジネスでも、将来的には数倍、いや、数十倍のビジネスになる可能性が高い」という。その先がけか、デパートの売り場に立つ男性店員のなかには、爪がピカピカな人が増えている。
本書で紹介しているのはほかに、広告会社の「売れるネット広告社」(福岡市)、ハイヤー・タクシーなどの「日本交通」(東京都千代田区)、居酒屋チェーン運営「エー・ピーカンパニー」(東京都港区)、イヤホン・ヘッドホンの「タイムマシン」(大阪市)、eラーニング「Schoo(スクー)」(東京都渋谷区)、回転すしチェーンの「あきんどスシロー」(大阪府吹田市)、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」などを運営する「俺の」(東京都中央区)、函館を中心にハンバーガーチェーンを展開する「ラッキーピエログループ」(函館市)、ビジネスホテルチェーンの「スーパーホテル」(大阪市)、ペヤングの「まるか食品」(群馬県伊勢崎市)、リゾート運営の「星野リゾートホールディングス」(長野県軽井沢町)、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営する「ユー・エス・ジェイ」(大阪市)。
本書は、経営者向けに、マーケティングの重要性についての理解を深める助けにとして書かれたものだが、飲食店チェーンの運営会社など消費者に身近な企業も多く、外食の際のガイドにも、就活や投資の参考にもなりそうだ。
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