「犬の力」「ザ・カルテル」などで知られるアメリカの人気作家ドン・ウィンズロウの新刊『ダ・フォース』は昨年(2017年)出版されるやベストセラーとなり、このほどハーパーコリンズ・ジャパンから邦訳が上下2巻の文庫本で刊行された。
汚職も厭わないタフな警察官たちが集まったニューヨーク市警の特捜部、通称ダ・フォースを率いるデニー・マローンを主人公にしたクライム小説だ。スティーブン・キングが「『ゴッドファーザー』のような警察小説」と絶賛したという。
上巻の扉を開くと、「この本を執筆中、左記の警察官が殉職された。本書を彼らに捧げる」とあり、約200人の警察官の名前が列挙されている。一時にくらべニューヨークは浄化されたと聞いていたが、この数には圧倒される。今もニューヨークの警察官たちは、ギャングや犯罪組織と命がけで闘っているのだ。
さらに書き出しが意表をつく。マンハッタン・ノース特捜部のリーダー、マローン部長刑事が「汚れたお巡り」として連邦拘置所に収監されているところから始まる。ニューヨーク市警史上最大の麻薬組織の手入れで、ヘロイン50キロを押収するという手柄を立てたというのに、何があったのだろう。理由は明白だ。手入れの際に250万ドルの現金と500万ドル相当のヘロインを着服したばかりか、一見なんの意味もなく大物麻薬ディーラーを撃ち殺していたのだ。小説は時間をさかのぼって、マローンが「堕落」していく過程を描く。
設定が設定だけに、このアイルランド系白人のダーティー・ヒーローにはなかなか感情移入しにくいが、チョイ悪オヤジ風の人物造形に魅力を感じる人もいるだろう。妻とは別居し、黒人女性とつきあい、悪党を威圧するためにタトゥーを入れている刑事だ。育ったのは、アイルランド系とイタリア系には、警官か消防士か悪党になるしか職業の選択肢はないという地域だった。
悪党たちと対決する場面もあるが、警察内部でのやりとりに紙幅が相当割かれている。「警察は部族で成り立っている。まず最初に来るのが民族グループ――最大勢力はアイルランド族で、二番手はイタリア族、そしてそのほかの白人族、次に黒人族、ヒスパニック族と続く」「ここから先は複雑になる。制服族、私服族、私服の中の刑事族が全民族グループを横断して存在するからだ。そして警察のほぼすべてが現場族と管理族に分かれている」。さらに部族はもうひとつあるという。「汚れたお巡り族」だそうだ。
悪漢刑事の物語とはいえ、ニューヨークの現場の刑事たちの息遣いが伝わってくる。日本の均一化した警察社会とは違う、重層的なアメリカの像が浮き上がる。
リドリー・スコットが製作し、ジェームズ・マンゴールドがメガホンをとり、映画化の準備が進んでいる。だれがマローンを演じるのか、興味をそそられる。
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