ネットトラブルに詳しい清水陽平弁護士の著書『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第3版』(弘文堂)が出ている。初版が2015年。第2版が17年。刻々と変化するネット状況に合わせて、素早く着実に刷りを重ねている。この3年の間に、サイトの運営会社が替わったり、閉鎖されたりしたサイトもあった。そんなこともあり、新たな判例などを踏まえ加筆したという。
本書の特徴は、サイト別の具体的な対応方法を豊富な画像を使って解説していること。一般ユーザーや、ネット問題にこれから取り組む企業の法務担当者や弁護士が、一目で理解できるように心がけたという。全体は6章に分かれている。
第1章 ネットトラブルでできること 第2章 削除依頼や開示請求の根拠 第3章 削除依頼の方法 第4章 開示請求の方法 第5章 炎上への対応 第6章 個別サイトへの対応
前半では、10の具体例をもとに、「削除依頼」と「開示請求」という2つの対応策や、ネット炎上が起きたときの対策や予防策を解説している。「自社の企業名を検索すると、『ブラック』などネガティブワードが出てくる」「ストーカーに裸のコラージュ写真をアップされた」「自分の名前を検索すると、過去の犯罪歴の記事が出てくる」などのケースが挙げられている。後半の第6章では、30ほどの有名サイトへの対応を具体的に説明している。嫌がらせの書込み・画像・動画は、どうすれば消せるのか、投稿した人物は、どうすれば探し出せるのか。「ネットトラブルから自分や会社を守る1冊」となっている。
今回、特に加筆したというところでは「第2章」の中の項目「権利の内容」がある。名誉権、プライバシー権、肖像権など13の権利が列挙されている。「氏名権・アイデンティティ権」「更生を妨げられない利益(更生の利益)」などもある。
「氏名権」は「なりすまし」に関連するようだ。「違法に侵害された者は、加害者に対し、損害賠償を求めることができる」という東京高裁の判決が平成30年に出ている。「更生の利益」については、すでに平成6年に最高裁の判決があり、「みだりに前科等を公表されない利益」として知られている。本書は平成29年の最高裁決定などを引用しながら、さらに詳しく最近の様子を説明している。
一方で、「忘れられる権利」については、2019年12月時点までには認められたケースがないから、「忘れられる権利」に基づく請求は認められないと考えてよいとしている。しかしながら、人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権は構成できるので、「忘れられる権利」に類似した法的効果を得ることは可能だと補足している。
このほか、「第4章 開示請求の方法」では、SNSに於ける権利侵害の場合にしばしば問題になる「ログイン型投稿」について加筆している。東京高裁の平成30年の判決なども紹介しながら、「ログイン型投稿の問題は、急速な技術の進歩やサービスの多様化によって生じている問題であるため、本来は、解釈ではなく法律改正等を通じた対応がされるべきものでしょう」と指摘している。ネットのトラブルが、技術革新ともリンクしており、法律が後を追いかけ、その間を判例が埋めていることがわかる。この辺りは弁護士の出番であり、活躍できる余地ともいえそうだ。
新型コロナウイルス関連でも、さまざまな虚報や嫌がらせがネットで乱れ飛んでいる。朝日新聞など各紙の報道によると、クラスター(感染者集団)が発生した京都産業大(京都市北区)には、抗議や意見の電話やメールが数百件寄せられ、中には誹謗(ひぼう)中傷や脅迫的な内容もあるという。限度を超えたものは、法的措置の対象となるかもしれない。
BOOKウォッチでは類書で、中澤佑一弁護士の『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(第3版)』(中央経済社)も紹介ずみだ。こちらも版を重ねている。このほか関連で、『ネットと差別扇動――フェイク/ヘイト/部落差別』(解放出版社)、『暴走するネット広告――1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)、『フェイクニュース――新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『ネット右派の歴史社会学』(青弓社)、『ヘイト・スピーチと地方自治体――共犯にならないために』(三一書房)なども紹介している。
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