仕事をしている時、上司や周囲の一言で「モチベーションが下がった」と思うことはないだろうか? 人間の心やアイデアはそれだけ繊細で、ちょっとしたことで一気にパワーは奪われてしまう。本書『モチベーション下げマンとの戦い方』(朝日新書)は、揺れ動く感情の波をコントロールし、再びエネルギーをとりもどすための思考法を説いた本だ。
著者の西野一輝さんは、経営・組織戦略コンサルタント。大学卒業後、大手出版社に入社、ビジネス関連の編集・企画に携わる。現在は独立。経営者、専門家など2000人以上に取材した経験を生かして、人材育成や組織開発の支援を行っている。
ところで、「モチベーション」という言葉が広く使われるようになったのは1990年代以降だという。それまでは似た意味の言葉として「モラール」が使われていた。西野さんは「動機づけ」、「目的意識」と翻訳されるが、「やる気」とほぼ同義だと見なしている。
モチベーションが下がるきっかけは、他者の影響が大きいが、自分の中にも「モチベーション下げマン」は存在すると指摘。以下の構成で、対処法を書いている。
第1章 こんなモチベーション下げマンはいませんか? 第2章 やる気を失わせる「この一言」への反論術! 第3章 モチベーションはなぜ重要か? 第4章 自分の中にいるモチベーション下げマン 第5章 自らのモチベーションを高める言葉 第6章 モチベーション上げマンが人を動かす
本書ではモチベーション下げマンを「MSM」と略称しているので、本稿でもそう呼ぶことにする。第1章で、面白いことが書かれていた。実は多くのMSMは、相手のモチベーションを下げようとしているわけではなく、よかれと思って余計な言動をしているというのだ。しかもたいていのMSMは、相手のモチベーションを下げているという事実に気づいていない、というからやっかいだ。
以下にMSMへの対処法をいくつか紹介しよう。
・ネガティブな意見で無駄に反対する人→「貴重な意見として参考にいたします。ただ、基本的な方針は変わりありません」 ・ミスの指摘が細かすぎる人→「私どもの力量では指摘事項を100%修正することは困難です」 ・純粋に相手のモチベーションを下げたい悪意の人→メンタルがタフなふりをするか、極力、接触を避ける ・「前例はあるの?」→価値を提示しながら「だからこそやりましょう」と言い切る ・「私はいいと思うけど、ほかの人はどうかな?」→「わかりました。ノーでいいのですね」 ・「君はもっとできると思っていた」→「いや、それ過大評価ですよ。等身大の自分はこんなもんです」 ・「これやって何の意味があるんですか?」→そうした部下や後輩には、面倒くさがらずに意味と理由を丁寧に伝える
第3章以降で、「なるほど」と思ったのは、モチベーションを自分でコントロールし、高めていくテクニックだ。「小さな成果に対して幸せ=モチベーションが高まる状態をキープすることが、成功を継続させる」。だから、「モチベーションを上げる要因を大小織り交ぜて持っておく」ことが大切だというのだ。
そして自分の過去の経験、出来事をもとにモチベーション曲線を描くことを勧めている。具体的にモチベーションが最高に上がったときの状況を頭の中で描写しておくといい。過去にも出来たのだから、きっとなれるはず、と自分が奮い立つのを感じるはずだという。
一方、管理職など組織のリーダーの立場にいる人は、部下のモチベーションとなる要因=リソースをまず知ることが重要だ、と指摘している。相手の承認欲求が満たされ、モチベーションが上がるようにタイミングよく具体的に褒めることが大切だ。
「お前、やる気あるのか!」と根性論で鍛えられてきた評者のような世代にとって、自分のモチベーション、相手のモチベーションまで頭に入れながら仕事をするのは容易ではない。
新型コロナウイルスの感染拡大により、政府の緊急事態宣言が出た今、日本人の多くはモチベーションが下がっているに違いない。しかし、中には在宅勤務、テレワークを余儀なくされ、モチベーションが上がっている人もいるかもしれない。モチベーションとは、ことほど個人の特性、感性に左右されるものだ。今こそ、自分の過去の成功体験を思い出し、それぞれがモチベーションを上げることが求められているのだろう。
ちなみに、「モチベーション」で、BOOKウォッチの過去記事を検索したところ、ビジネスよりもダイエットやスポーツ関連の記事が目立った。なるほど、体重の増減や勝敗はわかりやすい。小さな成功を積み重ねることが重要という本書のメッセージは当たっているようだ。
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