本書『完全版 世界で一番寒い街に行ってきた』(講談社)は、2018年4月にリリースされ、Kindleノンフィクションマンガで何度も1位を取った、大ヒットの旅のイラストエッセイ漫画4話を1冊の本に収録したものだ。タイトルのほかに、『旅のらくが記ヨーロッパ: ピカソ美術館めぐり』、『おいしいマレー半島縦断』、『中国少数民族いまむかし: 西江・元陽をめぐる旅』が収められている。
著者のまえだなをこさんは、イラストレーター。今まで訪れた国は44ヵ国という旅好きだ。
海外旅行が珍しかった時代ならいず知らず、海外旅行のガイドブックが溢れている今、なぜ、本書の電子版が大ヒットしたのか、という目から読んでみた。
タイトルにもなっている「世界で一番寒い街」とは、ロシア連邦のサハ共和国の北極圏にある街ベルホヤンスク。冬はマイナス50度にもなり、マイナス67度を記録したことがあるので、名前を聞いたことのある人も多いだろう。この秘境を取り上げたのがヒットの第一の要因だろう。
次に、まえださんら登場人物がマンガ的なキャラクターで描かれているのに対し、現地の人々や食べ物、風物はきわめてリアルに描かれている。さらに手書きの文字に温かみが感じられる。
マンガとイラストと文章が渾然一体となっており、1ページに盛り込まれている情報量は驚くほど多いのにもかかわらず、実に読みやすい。旅行記と言えば、作家の独壇場だったが、こうした手法はイラストレーターでなければ出来なかっただろう。
ベルホヤンスクに水道管はない。川から氷を切り出して煮て水にする。主食は馬だ。生レバー、馬モツ、馬のハンバーグ、水餃子の具も馬だ。寒いとカロリーを消費するので、食事は一日4回だ。
年間10人ほどしか旅行客が来ない街で、日本人は歴代11人目で珍しがられたそうだ。ツアーに協力してくれた小学校の先生のはからいで、学校総出の歓迎を受け、まえださんは「ベルホヤンスクは独自の文化を持った寒いけど暖かい場所だった」と書いている。
第二話「旅のらくが記ヨーロッパ:ピカソ美術館めぐり」では、カタール航空の航空券と、ヨーロッパの鉄道乗り放題のユーレイルパスのモニター企画が当たり、ヨーロッパの全ピカソ美術館制覇を目指し、フランス、スイス、ベルギー、ドイツ、イギリスの列車の旅の模様が描かれている。各地の宿の部屋のイラストが参考になる。
第三話は「おいしいマレー半島縦断」。タイからマレーシア、シンガポールへおいしいものを探して縦断。時に贅沢、時には節約して航空券とお土産込みで2週間79630円のバックパッカー旅行の裏ワザを紹介している。
第四話「中国少数民族いまむかし:西江・元陽をめぐる旅」は、15年ぶりに中国貴州省・雲南省の村に行った旅行記。今と昔でどう変わったのか、変わらないものはあったのか。旅慣れたまえださんの原点が見えてくる。
書籍化に際しての描きおろしエピソードが巻末に載っている。ベルホヤンスクに行く際に、成田に行こうとして羽田に行ったなどの数々の飛行機乗り遅れの言い訳やチーズやジェラートなど「がんばらないときのヨーロッパごはん」などが描かれ、まえださんの人柄がうかがえる。
新型コロナウイルスの感染拡大で、海外旅行はおろか国内旅行もままならない今、本書を読んで旅行気分を味わうのも一興かもしれない。
BOOKウォッチでは、明治のはじめ、東北地方を旅行した英国人女性イザベラ・バードの足跡を追った『新にっぽん奥地紀行』(発行・天夢人 発売・山と渓谷社)や『ザック担いでイザベラ・バードを辿る』(あけび書房)などを紹介している。いつの時代でも「秘境」人気は絶えないようだ。
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