何年か前、久しぶりに漫画家、つげ義春さんのお名前をお見かけした。あれはいつだったか? 調べて見たら2014年1月号の「芸術新潮」だった。美術評論家の山下裕二さんが、つげさんにロングインタビューをしていた。
その後またしばらく見かけないなあと思っていたら、今年(2017年)5月、日本漫画家協会の大賞を受賞したことが各メディアで報じられ、健在ぶりを知った。今ごろなぜ?とも思ったが、おめでたいことには違いない。
受賞理由は「漫画界の中でも異色の存在で、その作品世界は芸術性も高く追随許さないものである」。対象の作品名は、「つげ義春夢と旅の世界 他一連の作品」となっていた。
どうして2014年9月刊の『つげ義春夢と旅の世界』が、つげ作品の「以上総代」なのかな、と疑問に思った。本書は新潮社の「とんぼの本」シリーズの一冊。写真や地図、図表などが豊富で、どちらかといえば「入門者向け」の案内書が「とんぼ」だからだ。
つげさんの名作は60~70年代にかけて山のようにある。文庫版も多く、ちくま文庫では全9冊の「つげ義春コレクション」もあるではないか、と思った次第。
もちろん、本書が手軽に作られているということではない。ページをめくると分かるが、実に入念なつくりだ。代表作の「ねじ式」「紅い花」「ゲンセンカン主人」などがきっちり原画で再録されているし、「貧困旅行記」などでおなじみのひなびた温泉宿の写真も大判で余すところなく紹介されている。
凝ったつくりのイラスト「つげ義春 旅マップ」も貴重だ。全国ほとんどを歩いたというつげさんの足跡をじっくりトレースできる。「月刊ガロ」1993年8月号に掲載された「つげ義春 旅を語る」という一文も載っている。
「自分の場合、温泉のお湯に浸るのが目的じゃないんですよね。温泉そのものの貧しげなたたずまいなんかに惹かれていたんですよ。それが温泉ブームなんかでだんだんなくなってしまって・・・」と当時すでに、変わる秘湯の姿を嘆いている。
冒頭の「芸術新潮」に掲載されたものと思われる4時間のロングインタビューも再録されている。好きな音楽や映画の話から最近の困りごとまでざっくばらん。休筆して四半世紀、老境に入ったつげさんの日常が垣間見える。
あれこれ考えるに本書がいちばん最近のつげさんの本ということで、「右総代」になったのだろう。盛りだくさんな内容なので、これまで「ガロ」や文庫などでつげさんに親しんできたファンも改めて手に取ってみると、どこかに新しい発見があるに違いない。
漫画大賞の受賞式は6月に都内のホテルで開かれた。晴れ舞台につげさんはどんな表情で出席したのか? 当日の様子を伝えた毎日新聞の記事によると、つげさんは残念ながら、「腰を悪くして欠席」だったそうだ。快癒を祈りたい。
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