いま澁澤龍彦の名前を知っている若者はどれくらいいるだろうか? 70年代に学生生活を送ったものにとって、特に少し気取った若者にとって、澁澤龍彦の本は書棚のマストアイテムだった。『悪徳の栄え』(マルキ・ド・サド著、澁澤訳)、『思考の紋章学』『幻想博物誌』など澁澤の著書は、学生運動の退潮とともに左翼系の書物が色あせて見え、読むべき書物を探していたものにとって旱天の慈雨とでもいうべき存在だった。孤高の精神のありようをそこに見出したからだ。
10月7日から12月17日(2017年)まで、東京の世田谷文学館で書名と同じ展覧会「澁澤龍彦 ドラコニアの地平」が開かれている。本書はその図録として発行されたものである。
展覧会に展示された草稿、創作メモ、愛蔵の品々、蔵書、その著書、愛した美術品などが美しい写真に収められ、どのようにして澁澤の創作活動が展開し、澁澤が生きてきたかが分かる内容になっている。
たとえば澁澤は球体を愛したが、書斎の地球儀やウニの標本、奇妙なオブジェ、四谷シモン作の少女の人形、どこで手に入れたか分からないが貞操帯なんてのもある。
手書きの創作メモを見ると晩年の代表作『高丘親王航海記』などをどうやって書いたのか、思考の跡が見える。ワープロ原稿よりも手描きの原稿をありがたがる変な文学趣味は筆者にはないが、澁澤の手描き原稿には物神性を感じてしまう。彼がブツを偏愛した作家だったせいだろうか。原稿すら、その分身に見えてくるのだ。
澁澤が1987年に亡くなってから没後30年になる。これまでにも澁澤をテーマにした本や雑誌は多く出ているが、本書は澁澤の世界の魅力を伝えている点で決定版と言えるだろう。2002年刊行の『文藝別冊 澁澤龍彦』の澁澤年譜に自分の名前がないことを知り、自殺したと伝えられる前夫人の翻訳家・矢川澄子さん(2002年没)の名前も本書の年譜には記載されている。初期の澁澤の仕事を支えたとされる矢川さんを正当に評価した世田谷美術館の姿勢を諒としたい。
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