『ハゲタカ』は外資系バイアウト・ファンド(ハゲタカ・ファンド)を舞台に、不良債権処理や企業買収を描いた作品で、テレビドラマや映画にもなった。いまでは「ハゲタカ」といえは「会社乗っ取り」とか「信用できない外資系ファンド」といったイメージが定着した。
マネージャーの鷲津政彦が登場する続編もシリーズ化している。本作はそこからスピンアウトした作品で、舞台は日本を代表するクラシックホテルの日光ミカドホテル。主人公は創業家の長女、松平貴子だ。
ミカドホテルは経営難に陥り世界的リゾートグループの傘下に入り、貴子はグループのパン・パシフィック担当執行役員を命じられ、熱海の老舗ホテルの再建を任せられる。そうした中で、謎めいた香港の大富豪からミカドホテルの救済策がささやかれる。貴子はグループの本部があるパリに飛び、取締役会に臨むが......。
シリーズのほかの作品にはメーカーや金融機関が登場するが、本作はホテルとリゾートグループが舞台となっており、ヒロイン貴子とあいまって華やかさが漂う。とはいえ、斜陽著しい日本の旅館、ホテル業界の問題点もきっちり指摘され、参考になる。
ミカドホテルのモデルは金谷ホテルであることは明白だが、もちろん作品中の記述は架空のものだ。
最新の週刊ダイヤモンド(2017年12月9日号)は、温泉を特集している。それによると、一時は窮地に陥った日本の温泉地は2011年度を底にV字回復をとげ、明るさを取り戻しているという。熱海も土日は芋を洗うような活況となり、日光に近い鬼怒川でも東武鉄道のSL運行など好材料も出てきたという。本作の雑誌連載は2008~2011年だったので、底に転げ落ちていく時期だ。今なら著者の眼がホテル業界に向かうか、尋ねてみたいところだ。
もっとも、国内では、星野グループなどによる破綻した旅館、ホテルの再建・系列化も進んでおり、小説が現実を先取りしていたとも言える。年末、温泉につかりながら読むのも一興か。鷲津も重要な役どころで登場するので、シリーズとしての体裁も整っている。
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