本書『流浪の月』(東京創元社)は、4月7日に発表される「本屋大賞2020」の候補作である(編注:本書は2020年本屋大賞を受賞。4月7日追記)。どういうジャンルの小説なのか分からないままに読み始めたが、ラストの感動に包まれて読み終えた。
著者の凪良(なぎら)ゆうさんは、滋賀県生まれ。2007年に『花嫁はマリッジブルー』で本格的にデビュー。以後BL(ボーイズ・ラブ)作品を精力的に発表。2017年には非BL作品『神さまのビオトープ』を発表、作風を広げた。
本書の主人公、家内更紗(かない さらさ)は、9歳の小学生。母親の影響を受け、自由奔放に育てられた。しかし、幸せな日々は続かなかった。父親が消え、母親が消え、彼女は伯母の家で育てられることになる。
中学生の従弟にいたずらをされ、居心地が悪くなった更紗は、公園にいた若い男、文の家についていき、家に帰らないようになる。更紗にひきずられるように二人の生活は続いたが、動物園に行ったところで、更紗は保護され、男は逮捕される。
伯母の家に戻ったが、トラブルが起き、更紗は児童保護施設に行くことになる。卒業し、ファミリーレストランで働くようになった後日談から物語は始まる。
結婚を前提に同棲していた更紗は、ある日、あの若い男と再会する。文は名前を変えて、別の町でカフェを経営していた。たびたび、店に行くようになったが、文は気づいたそぶりも見せない。
更紗が店の常連になった頃、ネットに「更紗ちゃん誘拐事件」の犯人のその後が、ネットにさらされる。更紗の言動を怪しんだ婚約者の影が見え隠れする。破局を迎えた更紗は、文の住むマンションの別の部屋へ引っ越す。そして、事件の加害者と被害者が同じマンションに住んでいることが週刊誌に報道され、波紋が広がる。二人はどうなるのか?
書店員さんの推薦文が本の帯にある。
「理解も共感も必要ない。親切という騒音から解放された気高い関係をなぜ、だれもかれもが邪魔しようとするのか。お願いだ、2人をそっとしておいてくれ。何度もそう思いながらページをめくった」
拉致監禁事件の加害者と被害者が、時に「ストックホルム症候群」と呼ばれる親密な人間関係になることが知られている。しかし、この事件は、更紗が自ら望み起きたことで、男性に犯行の意図はなかった。しかし、何年たっても、そのことは他人には理解されなかった。
小説では、文の育った生活環境やその特異な心身の発達についても書かれているが、犯罪とは無縁である。
著者はBL系の作品を多く手がけてきたと知り、本書はそうした傾向の作品ではないが、温かい目で文の人間像を造形している、と思った。
世間の理解を得られない二人は、別の街で暮らし始める。そして、離れたところに住む、若い一人の理解者と交流を続ける。
途中、ミステリアスな場面もあるが、これは魂と魂が出会う物語だ。彼らの幸福を願わざるを得ない。
BOOKウォッチでは、本屋大賞候補作のうち、砥上裕將(とがみ ひろまさ)さんの『線は、僕を描く』(講談社)、川上未映子さんの『夏物語』(文藝春秋)、直木賞を受賞した川越宗一さんの『熱源』(文藝春秋)、横山秀夫さんの『ノースライト』(新潮社)、小川糸さんの『ライオンのおやつ』(ポプラ社)などを紹介済みだ。
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