「新型」「パンデミック」という文字。しかし、コロナウイルスナの話ではない。本書『新型インフルエンザ 2つの怖さ――H1N1パンデミックと「風評パンデミック」』(同友館)はインフルエンザの話。その大流行が恐れられていた2009年の刊行だ。少し古いが、今日の新型コロナの予防や対策と重なる部分が多い。子ども向けなので、「休校」時の対応などについても詳しく説明されている。
執筆は、子どもの教育や福祉に関する書籍を企画・編集・翻訳する「こどもくらぶプロダクション」。09年は新型インフルエンザ(H1N1型)の世界的流行があり、関連本も多数出版された。しかし、その多くは専門家が書いたもの。「こどもくらぶ」のスタッフは50冊ほど読んでみたが、みんなができる予防策としては、手洗い以上に具体的なことを示したものは見つからなかった。もうちょっときめ細かく、子どもたちの日常生活に即し説明したものが必要ではないかということで書いたのが本書だ。
全体は4つのパートに分かれている。「パート1 新型インフルエンザにかからない自信のある人、手をあげて!」、「パート2 新型インフルエンザのもう1つのパンデミック」、「パート3 新型インフルエンザ、最低限知っておくべきことは?」、「パート4 2つの準備」。それぞれにさらに小項目があり、「鳥インフルエンザは、どれほど怖いのか」「細菌とウイルスはどう違う」「飛沫感染は2メートル以内が危ない」「飛沫感染防止にうがいは役立つのか」「対策は家族全員で」「家族で看病する場合には」「医療機関の混乱」など、新型コロナウイルスにも通じる35の知識や対策が解説されている。活字は大きく、写真やイラストも豊富だ。
例えば「学校が休校になったとき」。いい気になってカラオケボックスに行ったりするのは危険だと強調している。「絶対に外出してはいけない」「友だちや近所の人を自分の家にさそって遊ぶようなこともいけない」とも。
小中高生たちが、大人に比べて、ふだんから互いの距離が近い空間で付き合いをしていることを念頭に、仲間と離れた単独での生活、いわば「巣ごもり」を呼びかけている。
自分や友だちが「今は具合が悪くない」と思っていても、「すでに感染しているかもしれない」ことも警告されている。「危険なマスク神話」では、ウイルスがマスクの生地を容易に通り抜けること、したがってマスクをつけていれば感染しないと考えることは、絶対にできないこと、「マスクは、インフルエンザにうつらないようにするものというより、うつさないためにするもの」と考えることが重要だということもすでに強調されている。
インフルエンザの大流行ではスペイン風邪が有名だ。1918年ごろ全世界で数千万人、日本でも38万人が死んだ。その後も「アジア風邪」(1957~58)、「香港風邪」(68~69)と流行が続いた。「アジア風邪」では世界で約200万人、日本で約7700人、「香港風邪」は世界で約100万人、日本でも2000人以上が亡くなった。
新型インフルエンザは、1997年発生の「H5N1型鳥インフルエンザ」が代表格。香港で発生して18人の感染者のうち6人が死亡した。香港政府は、人への感染源とされた家禽140万羽をわずか3日間で殺処分するなどして、人への感染を絶った。ただし、火種となったウイルスはその後も中国南部の野鳥などに存在し続け、2003年以降も世界各地の鳥に飛び火して流行が続いている。
このウイルス感染の最大の特徴は、症状が重篤で致死率が高いこと。本書では、09年7月までに世界15か国で436人が感染し、262人が死亡と報告している。もしも感染が拡大すると、各国の社会機能や経済活動が麻痺状態に陥り、地球規模の危機となる。そのため国際機関と各国の農業行政当局は、鳥における流行の制圧と新型インフルエンザの発生を阻止する行動を続けている。これまでのH5N1研究では、致死率は高いが、伝播力は通常のインフルエンザよりも劣るらしい。より強力な伝播力をもつものが発生した時が怖いということのようだ。
本書は2009年、メキシコから豚を起点とした別種の新型インフルエンザ(H1N1型)が発生し、世界で2万人近くが亡くなった時期に書かれたもの。インフルエンザについての歴史と現状を踏まえつつ、子どもができる防御策を伝えている。
タイトルの「2つの怖さ」というのは、病気そのものの怖さと、もう一つは「風評被害」。本書では09年当時のいくつかの例が再録されている。感染者が出た学校に「責任をとれ」というメールやファックスの抗議が来たり、その学校の制服を着た生徒が白い目で見られたり。読売新聞は当時、「病気よりも怖い社会」という社説を掲載したという。今回も一部で通じる話といえる。
流行に備えた準備としては、基本2週間分の食料や日用品の備蓄をすすめている。品目の一覧表も出ている。拡大が進むと、医療機関はもちろん、交通や物流も混乱、社会全体が混乱しかねないからだ。家庭で看病するときの留意点や注意事項も掲載されている。
今回の新型コロナウイルスが今後どうなるのか。現状では全く予測できない。子どもの学校が休みで、親子ですごす時間が長くなっている時だけに、本書などを改めて手に取り、長期戦に備えることも必要だろう。
「新型インフルエンザに感染する可能性はだれにでもある。それなのに、クラスや仲間のなかで、最初に感染した人が出たとき、多くの人は、戸惑いもあって、思わず、病気でつらい思いをしている友だちに対して、よくない言葉、好ましくない態度をとってしまうことがあるのだ。そうなると、感染してしまった人は、体だけでなく気持ちの面でもつらい目にあう」
本書のこのメッセージは、子どもだけでなく、大人の世界にも当てはまるだろう。
BOOKウォッチでは、マスク問題については、『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録 』(東洋文庫)で、パンデミックについては『猛威をふるう「ウイルス・感染症」にどう立ち向かうのか』(ミネルヴァ書房)、新型の鳥インフルエンザについては『知っておきたい感染症―― 21世紀型パンデミックに備える』 (ちくま新書)で詳しく紹介している。このほか『感染症とたたかった科学者たち』(岩崎書店)、『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)、『家族と企業を守る 感染症対策ガイドブック』(日本経済新聞出版社)など多数の関連書を紹介ずみだ。
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