日本でも新型肺炎で死者が出た。各地で続々と感染が公表され、中には中国との接点が不明な人もいる。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」はまるで病院船のようになっている。外務省はつい先日、中国在留の日本人に、早期の一時帰国検討を呼び掛けた。
新型肺炎を巡る状況が、急速に新しい局面に入ったのではないかと不安を感じている人が少なくないのではないか。本書『家族と企業を守る 感染症対策ガイドブック』(日本経済新聞出版社)は5年前の刊行だが、「感染症」に絞り込んでいるので、今日の事態にも通じる対策を教えてくれる。
著者(編集)は東京海上日動リスクコンサルティング。1996年、東京海上火災保険の企業向けリスクコンサルティング部門から独立して設立された。企業・官公庁・自治体などに対して、自然災害、火災・爆発、事業継続計画(BCP)、製品安全、広報対応、危機管理、戦略リスクなど幅広くリスクコンサルティングをしている。
主な出版物に、『企業の地震リスクマネジメン卜入門~経営者から防災担当者までが知っておきたい基礎知識~』(日科技連出版社)など。BOOKウォッチで紹介した『海外危機管理ガイドブック――マニュアル作成と体制構築』(同文舘出版)も同社の編集だ。
監修は和田耕治氏。現在は国際医療福祉大学医学部教授。著書に『新型インフルエンザ(A/H1N1)――わが国における対応と今後の課題』(中央法規出版)、『企業のための新型インフルエンザ対策マニュアル――事業を継続するために、いま行うべきこと』(東洋経済新報社)などがある。
信頼性の高い著者(東京海上日動リスクコンサルティング)と、感染症対策で権威ある医師(和田耕治氏)の監修、というのが本書の売りだ。手軽なハンドブックとして「オフィスに1冊、家庭に1冊、ぜひ常備ください」とPRしている。
以下の構成になっている。
第1章 エボラ出血熱を知る 第2章 新型インフルエンザを知る 第3章 その他の注意すべき感染症 第4章 企業を守る 第5章 家族を守る
エボラ出血熱が2014年に大問題になった直後の出版なので、エボラが冒頭に登場する。「企業を守る」「家庭を守る」という章もあり、全体として今度の新型肺炎にも参考になる内容だ。
さすが「東京海上だな」と思ったのは75ぺージに掲載されている「感染症の種類と医療体制」という一覧表。日本では感染症を「新感染症」「一類~五類の感染症」「新型インフルエンザ等感染症」に分けている。それぞれの「類」に合わせて医療体制が組まれている。
「新感染症」は「特定医療機関」、「一類」については「特定・第一種感染症指定医療機関」、「二類」は「特定・第一種・第二種感染症指定医療機関」が担当する。損保会社の編集なので、その分類ごとに、本書では「医療費負担」についても記されている。
「新」は「全額公費(医療保険の適用なし)」、「一・二類」については「医療保険適用残額は公費で負担(入院について)」、「三~五類」は「医療保険適用(自己負担あり)」と明示されていた。つまり感染症は、病気のランクに応じて、医療費の支払い方法が異なるということだ。
ちなみに、「一類」にはエボラ出血熱など、「二類」には結核、SARSなど、「三類」にはコレラなど。一般のインフルエンザは「五類」だ。「新」には病気例が示されていない。今度の新型肺炎がどこに該当するのか、まだあまり報じられていない気がする。厄介な検査や長期の隔離入院を強いられるだけに、医療費のこともちょっと気がかりだ。
本書によると、日本の企業の感染症対策は不十分。最低限必要な対策として、最も重要なのは「体調が悪い人、特に発熱している人を職場に来させないこと」だと強調している。なるほどと思ったのは125ページに掲載されている「安否確認」システムを利用した健康状態チェックだ。毎日報告させ、安否確認システムで確認し、社員の健康状態をモニタリングして拡大予防を心掛けるべきだという。
1、 検温の結果、38度以上の発熱はありますか? 2、 咳・悪寒・下痢などの症状はありますか? 3、 家族の方に上記いずれかの症状はありますか? 4、 出社は可能ですか?(上記1~3のいずれかの症状があるときは出社しないでください)
それぞれについて「ある」「ない」、「可能」「不可能」などと答える。出社不可能となった社員には医療機関での受診を義務付け、結果を報告させる。家族に症状がある場合も申告と対応が必要だ。オフィスに入退室前に検温を義務付けることも有効だという。家族の状況まで把握するというのは、今回の新型肺炎の場合、確かに意味があるかもしれない。出社後には15秒間ほど流水による手洗いも必須だ。
感染症が長期化した場合に何が必要か。オフィスや家庭で必要な備蓄品の一覧も掲載されている。「感染した家族を看護するときの注意点」「休校・休園に備えた確認事項」なども記されている。効果が不確かな対策としては、空気清浄機が挙げられている。
現状では日本が中国以外では最大の感染国になる可能性もある。人から人への感染が始まり、しかも感染ルートがはっきりしない。より強い対策が必要と考えている企業や団体、教育機関の危機管理担当者は少なくないのではないか。この機会に一読をすすめたい。
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