本書『ムゲンのi』(双葉社)は、「本屋大賞2020」の候補作である。上下巻合わせると700ページを超える大著である。
著者の知念実希人(ちねん みきと)さんは、1978年生まれ。東京慈恵会医科大学後、内科医に。2011年、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、『誰がための刃 レゾンデートル』(『レゾンデートル』に改題して文庫化)でデビュー。主に医療ミステリーを手がけ、『仮面病棟』は50万部のベストセラーになった。
本書の主人公、識名愛衣も病院に勤務する医師で医療ミステリーという体裁を取っている。
眠り続ける病気、特発性嗜眠症候群、通称「イレス」という奇病が、東京の西部地方で同じ日に発生。愛衣の病院に入院、彼女は4人のうち3人を担当している。
沖縄の霊能者ユタの話が出てくる。マブイ、魂を落としたり、吸い取ったり、そんな「夢幻の世界」に愛衣は入りこみ、治療を開始する。
愛衣には、23年前に起きた家族と彼女にかかわる忌まわしい事件の記憶があるようだ。それらのトラウマと闘いながら、一人またひとりと患者を眠りから目覚めさせていく。
「第1章 夢幻の大空」、「第2章 夢幻の法廷」、「第3章 夢幻の演奏会」、「第4章 夢幻の腐食」、「第5章 そして、夢幻の果てへ」の間に「幕間」が4つ登場する。愛衣の先輩医師、杉野華のもとに警察が訪ねて来て、40日前から昏睡状態が続いている彼女の担当患者が、東京の連続通り魔殺人事件にかかわっているかもしれないというのだ。
この構造に本書を読み解く最大のカギが潜んでいる。魂が交流する「夢幻の世界」とは何なのか? また、睡眠中に見る夢の世界とは?
本書を読んでいくと、どこか感じる違和感。これは現実レベルの記述なのか、夢レベルなのか、魂の世界のレベルなのか それらが判然としなくなり、ぼーとした気分の境地となる。
本屋大賞にノミネートされ、帯に寄せられた書店員さんの推薦文は、こうある。
「もうなんなんだ。この作品は!? 医療系なのにファンタジーで、ミステリー」 「これは、言うならば『体感するミステリー』! いつしか私も主人公と共に迷い苦しみながら、大切な『何か』を思い出す旅に出ていました」
確かに、これは「読む」というよりも「体験する」というのにふさわしい本かもしれない。
現実世界で起きていた連続通り魔殺人事件と眠り続ける患者の関係とは? 「なんなんだ」と感じていた違和感が最後にすべて回収される。著者の構築した世界観に感嘆した。
鮮やかな叙述のワナにぜひはまりながら読んでいただきたい。驚くべき読書体験になることだろう。知念さんの作品は3年連続の「本屋大賞」ノミネートとなった。
BOOKウォッチでは、BOOKウォッチでは、本屋大賞候補作のうち、砥上裕將(とがみ ひろまさ)さんの『線は、僕を描く』(講談社)、川上未映子さんの『夏物語』(文藝春秋)、直木賞を受賞した川越宗一さんの『熱源』(文藝春秋)、横山秀夫さんの『ノースライト』(新潮社)、小川糸さんの『ライオンのおやつ』(ポプラ社)などを紹介済みだ。
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