新型コロナウイルス対策として、一部の企業で導入されている「テレワーク」が注目を集めている。政府が「働き方改革」の一環として推進してきたテレワークが、はからずも在宅勤務の拡大により、功を奏した格好になっている。本書『テレワーク導入の法的アプローチ』(経団連出版)の発行は新型コロナウイルスの日本での感染が広がる前だが、時宜を得たものと言えよう。就業規則の修正など、総務担当者の参考になるに違いない。
著者の末啓一郎さんは第一東京弁護士会所属の弁護士。現在、ブレークモア法律事務所パートナー。一橋大学ロースクール講師も務める。
第1章で、テレワークに関する基本知識について解説している。「離れた場所での勤務」がテレワークの本質だとし、通常勤務とそれ以上の本質的違いがないことを理解しておくことが重要だと指摘している。
契約形態(就業実態)によって雇用型テレワークと自営型テレワークがあり、前者は労働法規の適用を正面から受ける。
メリットとしてワークライフバランスの実現、コストの低減、生産性の向上などのほか、事業継続計画を挙げている。「自然災害、伝染病などの疾病等に対し事業の継続性を高めることにもつながるものである」と書いているが、今回の新型コロナウイルスへの対策として浮上するとは、著者も予想していなかっただろう。
生じうるデメリットについても検討している。
1 仕事と私生活の区別が曖昧になることによる弊害 2 出社しないこと自体による業務効率の低下 3 セキュリティ上の懸念 情報セキュリティ対策が必要に 4 コストの増大 5 組織としての一体感低下のおそれ 6 不公平感助長のおそれ 7 同一労働同一賃金の問題 正社員のみに認めるとコンプライアンス上の問題に
これらのメリットとデメリットの間にはトレードオフの関係はほとんどないので、デメリットを抑えながら、メリットを最大化する方策を検討すべきだ、としている。その中で、働き方に対するマインドセット変革が必要だという。つまり、「所在する、出社する=仕事をする」という暗黙の了解を変えなければならないというのだ。
新しい通信技術5Gの時代が到来すれば、事業所外での勤務も現実的な「指揮命令下」におくことができるようになり、テレワークは進むものと見ている。
第2章では、雇用型テレワークへの労働法規の適用について、労働関係法規一般の原則適用、労働時間規則の適用などについて解説している。
第3章の最後に、厚生労働省が作成した「テレワークモデル就業規則」に基づきながら、以下の就業規則の「作成の手引き」について解説している。
目的・適用範囲、定義規定(就業場所についての規定)、テレワーク就業許可基準に関する規定、服務規律に関する定め、労働時間に関する定め、給与・手当に関する定め、業務遂行方法に関する規定
テレワークの導入実験を飛び越え、新型コロナウイルス対策として一気に導入を余儀なくされた企業も少なくないだろう。今後、さまざまな問題が発生することが予想される。労働時間の算定について過去の最高裁の判例を踏まえた解説など、トラブル回避の参考になるだろう。
また、「それまで自営型テレワーカーと考えていたものが、実態は雇用契約である」と争われる可能性も指摘、関連の労働法規や判例にもふれている。
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