読むべき本、見逃していない?

東京オリンピックの遺産(選手村)は格安物件なのか!

選手村マンション「晴海フラッグ」は買いか?

 2020年、年が明けて東京オリンピック報道が飛躍的に増えてきた。選手村についてもテレビが紹介していた。跡地のマンションにも熱い視線が集まっている。東京の都心にもかかわらず「激安」だとささやかれているからだ。

この物件だけで一冊の本に

 本書『選手村マンション「晴海フラッグ」は買いか?』(朝日新聞出版)は、異色の本だ。特定の物件だけで一冊の本になるのか? そんな疑問をもつ人もいるだろう。評者も冷やかし気分で本書を読み始めたが、その特徴を知り、「なるほど、これなら本になるな」と納得した。2019年5月刊なので、その後、事態は進んでいるが、基本的な部分は変わらないだろう。

 著者は三井健太さん。大手マンション分譲会社で開発から設計、企画、営業まですべての実務を経験して独立。マンション研究家、住宅・不動産アドバイザーとして活動している。三井さんが、「晴海フラッグ」の特色をこう整理している。

 1 日本最大級の大規模分譲マンションである
 2 土地のないはずの都心に創られるニュータウンである
 3 複数のマンション、商業施設、小中学校など街の機能が一通りそろう街である
 4 ウォーターフロントの街である
 5 リゾート的な要素のある環境下のマンションである
 6 東京都中央区のアドレスである
 7 新橋駅に10分の近距離である
 8 東京オリンピックのレガシーである
 9 マンション開発業者大手11社の共同事業である
 10 中央区のマンションとしてはあり得ない価格で販売されるマンションである
 11 安いので、同予算なら広い我が家が手に入ることになる

 こう書くといいことばかりのようだが、不安材料もある。

 1 鉄道のない街である。最寄り駅には徒歩なら20分もかかる
 2 BRT(バス高速輸送システム)がどのようなものか。よく分からない
 3 買いたい部屋をうまく買えるか
 4 引き渡しまでの時間が長い
 5 事業主が単独でない

23棟総戸数5600戸、人口1万2千人の街

 全部で23棟のマンションが建設される。その中には50階建てのタワーマンションも2棟計画されている。賃貸住宅も含めて総戸数は5600戸、計画人口1万2千人の街を4年か5年で一気につくろうというのだから、その規模の大きさが分かる。

 著者は、タワーマンションの価値、晴海フラッグの間取りの分析、価格は本当に安いのか、バス便マンションの将来価値などの観点から、長所と短所を詳しく分析している。

 いくつか興味深いデータを紹介している。都心14区の階数別リセールバリューのグラフだ。2006年から2016年の10年で、価格維持率を階数別に算出して比較したものだ(東京カンテイ社)。4階以下が94.0なのに対し、10階以上は111.5、30階以上は143.6と値上がりしている。もちろん高層階ほど売り出し価格は高いが、リセールバリューがあることは確かなようだ。

バス便をどう評価?

 多くの人がバス便マンションということに懸念をもっているだろう。これについてもこんなデータがある。東京23区築10年中古マンション最寄駅からの所要時間別リセールバリューだ。2007年から2017年の10年(東京カンテイ社)の数字だが、徒歩3分以内は110.1と下がらないが、徒歩10分以内で95.0、徒歩20分以内で88.6、バス便になると70.1まで下落する。

 バス便マンションは「広くて安い」が共通点だが、実は割高だというのだ。実質価格より10パーセント高く分譲されているのが業者の常識だという。だから著者は新築のバス便マンションは論外。しかし、適正価格まで下がった中古ならどうぞ、というスタンスだ。

 本書には中央区の近隣マンションや都内のバス便マンションの階数別流通価格の表も載っているので、参考になるだろう。

 交通の便がいいとは言えない「晴海フラッグ」を買うのはどういう人か。著者は、海の好きな人、深夜帰宅者、自転車通勤者、リタイヤ族、テレワーク可能なサラリーマン、自営業者、BRTが通勤に便利な人、80平方メートル以上のマンションに住みたい人などと予想している。

3LDK72平方メートルで5700万円

 本書が出た昨年(2019年5月)の時点では販売価格はまだ公表されていなかったようだ。直近の「晴海フラッグ」のHPを見ると、今月11日に行われた、ある棟の事前案内会では、2LDK61平方メートルで4900万円、3LDK72平方メートルで5700万円とあった。

 東京23区のマンションの坪単価は2018年で375万円(不動産経済研究所)という数字を紹介しているから、確かに「晴海フラッグ」の販売価格は、かなり割安だ。

 著者の結論はこうだ。

 「晴海フラッグは生活の快適性も資産性もともに優れたマンションになる確率が上がります。まだ断定できないことが少なくない今の段階で、資産性に関して筆者が言えるのは『儲けられるかどうかは断言しかねるが、大損することもない』までです」

 オリンピックの期間中、選手村の映像は何度もテレビに映るに違いない。首都圏の人だけでなく、全国あるいは海外から購入希望者が現れそうな気もするが、どうだろうか。東京一極集中がますます進む結果になるかもしれない。

 本書は不動産を購入しようという人向けの本だから、なぜこの物件が安いのかの「カラクリ」にはふれていない。だが、土地の払い下げなどは適正に行われたのか、など疑問をもつ人も多いだろう。それはまた別の著者の任となる。なお、最寄り駅の「勝どき」駅はすでにして近隣のマンションラッシュで、朝晩はものすごい混雑だということは知っておいたほうがよさそうだ。

  • 書名 選手村マンション「晴海フラッグ」は買いか?
  • 監修・編集・著者名三井健太 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2019年5月30日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数A5判・223ページ
  • ISBN9784023317925

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