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三角縁神獣鏡は、やっぱり中国で作られていた!

  • 書名 鏡の古代史
  • 監修・編集・著者名辻田淳一郎 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年12月23日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数四六判・416ページ
  • ISBN9784047036635

 「魏志倭人伝」は239年(景初3年)、魏の皇帝が卑弥呼に銅鏡百枚を下賜したと記している。日本各地の古墳には、しばしば鏡が副葬されている。「三種の神器」の一つは鏡だ。本書『鏡の古代史』 (角川選書)は、古代において様々な意味で特別の価値を持っていたと思われる鏡を手掛かりに古代史を丹念に再考したものだ。著者の辻田淳一郎さんは1973年生まれ。九州大学大学院人文科学研究院准教授。著書に『鏡と初期ヤマト政権』、『同型鏡と倭の五王の時代』などがある。

「舶載鏡」と「倭製鏡」

 日本ではこれまでに6000枚を超える古代の鏡が見つかっているという。それらの鏡は大別して以下の4種に区分けされている。

 (1) 朝鮮半島鏡
 (2) 中国鏡
 (3) 三角縁神獣鏡
 (4) 倭製鏡

 日本列島に初めて金属製の鏡が出現したのは紀元前三世紀ごろ、弥生時代中期のことだという。朝鮮半島製の青銅の鏡だった。その後、中国で漢が成立し、紀元前108年に朝鮮半島北部に楽浪郡が設けられると、そこを経由して中国製の鏡がもたらされるようになる。さらに古墳時代にかけて、それらの中国鏡を模倣した鏡が日本列島でも作られるようになった。

 日本列島に外部からもたらされた鏡は「舶載鏡」と呼ばれている。それにたいし「和製」とされるものが「倭製鏡」だ。仿(まね)て作られたということから、かつては「仿製(ぼうせい)鏡」とも呼ばれていた。独自の特徴もあるということで最近は「倭製鏡」と呼ばれることが多いそうだ。

 長年議論になってきたのが「三角縁神獣鏡」だ。「景初三年」(239年)、「元始元年」(240年)といった魏の年号を有するものもある。日本では約600例が出土している。その中でも製作年代が古く、文様が精緻な一群を「舶載」三角縁神獣鏡、製作年代が新しく文様が粗雑な一群を「仿製」三角縁神獣鏡と呼んできた。前者を中国製、後者を日本列島製とする見方が一般的だったという。とはいえ中国では三角縁神獣鏡は出土しない。なぜ日本でしか見つからないのか、どこで製作されたのか。卑弥呼の「銅鏡百枚」が三角縁神獣鏡ではないのか、という話もからんで古代史の大きな謎だった。

「魏晋鏡」と同じ特徴

 著者は最近の研究の成果を紹介している。それによると、三角縁神獣鏡には「長方形鈕孔」「外周突線」という二つの特徴があり、1990年代以降、同じ特徴を持つ鏡が、華北東部の山東省から渤海沿岸周辺の「魏晋鏡」にもあることが突き止められた。また、河北省で出土した魏晋鏡の銘文が、静岡県磐田市出土の三角縁神獣鏡とまったく同じだということもわかった。ということで「舶載」三角縁神獣鏡の系譜が「魏」の領域にあることが有力視されるようになっているという。

 そもそも「舶載」と見られる三角縁神獣鏡には、象や駱駝、仏像、車馬なども描かれていた。当時の日本列島では未知のものだ。したがって製作は中国、もしくは中国の工人によるという見方が強かった。

 残る大きな疑問はなぜ中国で、日本列島の三角縁神獣鏡とまったく同じものが見つからないのかということ。著者は、「一貫して列島社会の側の必要性に応じて製作された鏡」と記すにとどめている。要するに、何らかの理由で、三角縁神獣鏡は、日本列島の側で特別の需要があって作られたもののようだ。「仿製」三角縁神獣鏡が作り続けられたということに関しても、「列島社会の中で求められ続けた」からだとする。

 ふと思ったのだが、象や駱駝、仏像、車馬など「見たことがない」物がデザインされているということは、珍重された大きな理由の一つだったのではないか。しかも当時の圧倒的な先進国、中国で作られたということがポイントだ。はるばる中国に出かけた使節団が、特製の鏡を授かって帰国する――それは中国王権との直接のつながりを示す証であり、支配階層のステータスシンボルになったのではないか。

朝鮮半島から倭製鏡が出土する

 本書は以下の構成になっている。

 序 章 弥生・古墳時代の歴史と鏡
 第一章 弥生時代における鏡の出現と地域間交流――弥生時代中期
 第二章 紀元後一~三世紀における地域間交流と鏡――弥生時代後期~終末期
 第三章 古墳時代の始まりと新たな鏡の出現――古墳時代前期(一)
 第四章 古墳時代前期における鏡の流通と葬送儀礼――古墳時代前期(二)
 第五章 倭の五王の時代における鏡の政治利用――古墳時代中期
 第六章 六世紀代の鏡の授受とその終焉――古墳時代後期
 終 章 鏡からみた日本列島の古代国家形成

 各章のなかでさらに「三角縁神獣鏡の製作地と製作問題をめぐる諸問題」、「対朝鮮半島交渉の変遷と沖ノ島における鏡の奉献」、「巨大古墳と技術革新の時代――銅鏡から武器・武具へ」、「朝鮮半島出土銅鏡からみた栄山江流域の前方後円墳と『磐井の乱』」など色々と興味深いテーマが並んでいる。

 その一つ、磐井の乱は527~8年ごろ、九州の豪族、筑紫君磐井が新羅と結んで継体政権と対立して起きた。朝鮮半島ではそのころの倭製鏡が出土しているそうだ。一方、北部九州では新羅系の遺物が見つかっている。著者は、「磐井の乱以前においては列島各地の地域集団が独自に朝鮮半島の諸勢力と多元的な交流を行っていたとみられる」と記す。

 本書の大きな特徴は参考文献の多さだ。約30ページ、たぶん500冊以上が並んでいる。膨大な先行研究をベースに研鑽を積んだ様子がうかがえる。本書の内容は極めて精緻で研究者向けだが、上記のように、関心のあるところに絞った拾い読みも可能な体裁となっている。卑弥呼の「銅鏡百枚」についても、著者の見方が記されている。

 BOOKウォッチでは関連でいくつかの本を紹介済みだ。『古鏡のひみつ――「鏡の裏の世界」をさぐる』(河出書房新社)によると、鏡には太陽の光を受けて輝くという特殊な特徴があり、そこに古代の人々は神秘のパワーを感じた。そうして鏡の裏面には、その呪術性、神秘性にまつわる様々な文様や神仙の図像が刻まれるようになったと解説されていた。

 『奪われた「三種の神器」――皇位継承の中世史』(講談社現代新書)には「八咫鏡(ヤタノかがみ)」の話も出てくる。『「異形」の古墳――朝鮮半島の前方後円墳』(角川選書)では韓国南西端に位置する栄山江流域の前方後円墳について詳述されていた。

 本書では鏡の原料分析の話も出てくるが、考古学と科学との関わりは『文化財分析』(共立出版)が最新状況を伝える。

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