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飛鳥美人は「唇の色」に秘密があった!

文化財分析

 歴史は土の中にある、といわれることがある。文字史料が残されていない時代については、考古学に頼るところが大きい。しかしながら、単なる地層による年代測定や、類似の遺物との比較ではよく分からないことも多い。そんなときに活躍するのが「科学」だ。

 本書『文化財分析』(共立出版)は、科学的に文化財を分析することを学ぼうとする学生や研究者向けの一冊。専門的な記述がほとんどだが、文系の人が読んでも興味深い話が多々ある。

ガラスをめぐる気宇壮大な物語

 過去の分析例がいくつも掲載されている。例えば国宝「高松塚古墳壁画」の彩色方法。有名な「飛鳥美人」が描かれている。発見から30年後の2002年、蛍光X線分析装置で壁画全体の材料調査が行われた。たくさんの成果があった。中でも「そうだったのか」と思ったのは「飛鳥美人」の唇や帯の赤色の話。そこからはHgが顕著に検出され、Hg系の赤色材料である辰砂が使われていることが分かったという。

 上着全体の赤色部分からはHgは検出されなかったというから、同じ赤でも、より強調すべき唇などにワンポイントで辰砂を使ったのだろう。そうした細かな使い分けを知って、現在のメーキャップアーティストにつながるような美的センスを感じた。飛鳥時代の職人はなかなかやるじゃないかと。

 古代のガラスの話も面白い。奈良県明日香村にある飛鳥寺の埋蔵品からは大量のガラス玉が発見されている。飛鳥寺は6世紀末にさかのぼる古い歴史を持つ。果たして、このガラス玉のルーツは?

 これまた様々な分析をしたところ、ガラスの組成などから、古墳時代後期までに海外から日本列島に持ち込まれたものだとわかった。産地は南アジア、東南アジア、中央アジア、南インドなどの可能性もあるというから気宇壮大だ。

若冲はやはりタダモノではなかった

 江戸時代の画家伊藤若冲の代表作の一つ、「動植綵絵」についてはこんなことが分かった。このころ日本に輸入され始めた「プルシャンブル―」という青色の材料を早々と使っているのだ。若冲が新しい画材についてきわめて意欲的で入手に熱心だったことがうかがえる。

 もう一つは、特殊な技法。作品の中では、鶏や孔雀、鳳凰など鳥の羽根を美しく透けて見える金色で描いている。これまでは下層に金粉を溶いたものを塗り、その上に白色の彩色をしていると理解されていた。ところが分析によると、金を一切使わずに金色と認識させる特殊技法を用いていることが分かったそうだ。このあたり、本書では詳しく説明されている。あのマニアックな作品は、スーパーテクニックによってはじめて実現が可能だったのだ。

 本書は日本分析化学会の編集。著者の早川泰弘さんは東京文化財研究所保存科学研究センター副センター長。高妻洋成さんは奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長。

 このほか国宝「源氏物語絵巻」、国宝「稲荷山鉄剣」、国宝 平等院「鳳凰像」などについても取り上げられている。古い話では「永仁の壺」事件なども登場する。歴史や考古学、美術史に関心がある人には一読をすすめたい。

  • 書名 文化財分析
  • サブタイトル分析化学実技シリーズ―応用分析編
  • 監修・編集・著者名日本分析化学会 編集、早川 泰弘 著、高妻 洋成 著
  • 出版社名共立出版
  • 出版年月日2018年8月30日
  • 定価本体2500円+税
  • 判型・ページ数A5判・100ページ
  • ISBN9784320044555
 

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