新型コロナウイルスが世界に蔓延し、大不況の不安が広がっている。株式市場は乱高下が続き、まだ底値が見えない。これからどうなっていくのか。
本書『日経平均が1日1000円暴落する相場で勝つ投資術』(日本経済新聞出版社)は、4年前の出版だが、こんな時だからこそ思わず手に取りたくなるタイトルだ。
この種の本には、実際のところ距離を置く人も少なくないかもしれない。派手なタイトルで素人を手玉に取ろうとしているのではないか、騙されるのではないか・・・。本書は二つの点で、そうした心配をクリアーしているといえる。
一つは出版元が日本経済新聞出版社だということ。内容は、きちんとしているのではないかという気になる。まさか針小棒大、羊頭狗肉ではないだろうと。
もう一つは著者の吉野貴晶さん。本書を手に取ってから知ったのだが、出版時の肩書は大和証券チーフ・クオンツ・アナリスト。1965年生まれ。千葉大学卒業。筑波大学大学院博士課程修了(システムズ・マネジメント博士)。山一証券などを経て98年大和総研に入社。2010年より現職。日経ヴェリタス人気アナリストランキング・クオンツ部門で、02年から16年まで15年連続1位を獲得。大学共同利用機関法人情報・システム研究機構統計数理研究所リスク解析戦略研究センター客員教授、青山学院大学大学院(MBAコース)非常勤講師なども務めているという。ビジネスの最前線で活躍し、大学でも教えている。
著書に『No.1アナリストがプロに教えている株の講義』(東洋経済新報社)、『サザエさんと株価の関係――行動ファイナンス入門』(新潮新書)、『株式投資のための定量分析入門』(日本経済新聞社)などがある。
本書はまず、近年株価が大きく変動しやすくなっていることを指摘する。日経平均が一日500円以上も上昇したり、下落したりすることが増えているというのだ。冒頭でその回数をグラフ化しているが、この10数年では三つの「山」があった。一つは2000年ごろ。これはITバブルの崩壊。次が08年のリーマンショック。そして三つめが15年後半から16年の1~3月期だ。ITバブルやリーマンショックは、株に疎い評者でも知っていたが、三つ目の大変動は記憶になかった。16年の1~3月期には500円以上の上昇が3日、下落が5日あったという。
それぞれの理由についても説明されている。共通しているのは過剰流動性。低金利による金余りだ。「近年の株価変動が大きい理由は、安定して長期的に魅力的な資産が見つからないため、一時的に魅力が高まる資産に一気にお金が流れ込み、その後、反動が表れる」ことによるという。
また、一日の中でも変動が多いことが近年の特徴だという。これは投資家の株価動向への見通しが安定していないからだ。業界ではこれを市場センチメント(心理)と呼ぶ。安定していないから、様子見から強気へ、そして弱気へと転換が速くなっている。
本書は「第一章 なぜ株価が乱高下するのか」、「第二章 基本的な投資指標の見方」など7章に分けて株価の変動や、投資術などについて解説する。その中で興味深かったのは「超低金利下では市場心理が相場を大きく左右する」「市場心理は恐怖指数で読む」という項目だ。
「恐怖指数」というのは投資家の心理を表す指標のことだ。「日経平均プロフィル」というウエブサイトに「日経平均ボラティリティー・インデックス」(日経平均VI)というのが掲載されている。この日経平均VIの数値が25ポイントを上回ってくると、投資家心理が悪化している一つの目安になるのだという。
そこで試しに、2020年3月17日の日経平均VIを調べてみた。午後2時過ぎに56.41という数字が出ていた。前日は60を超えていた。ほんの1か月前までは20を下回っていたので、急上昇だ。異常事態だということがわかる。
本書では株価の変動理由をいろいろ分析しているが、さすがに今回のコロナリスクのようなケースは登場しない。いわばプロから見ても全く想定外というのが今の市場の姿だ。個別の企業の努力ではどうにもならない暗雲に世界経済全体が覆われている。「恐怖指数」が再び25を下回るのはいつの日になるのか。
BOOKウォッチでは関連で『2020年世界大恐慌――資産家は恐慌時に生まれる』(第二海援隊)、『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)、『日銀と政治』(朝日新聞出版)、『中央銀行の罪――市場を操るペテンの内幕』(早川書房)、『やってはいけない不動産投資』 (朝日新書)なども紹介済みだ。感染症がらみでは、『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)、『ウイルス大感染時代』(株式会社KADOKAWA)、『猛威をふるう「ウイルス・感染症」にどう立ち向かうのか』(ミネルヴァ書房)、『知っておきたい感染症―― 21世紀型パンデミックに備える』 (ちくま新書)、『感染症の近代史』(山川出版社)など多数紹介している。
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