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日本はインフラの二流、三流国になる

荒廃する日本

 本書『荒廃する日本 これでいいのかジャパン・インフラ』(日経BP 発行、日経BPマーケティング 発売)の著者、インフラ再生研究会は、国土交通省OBの関連団体役員ら10人で構成されている。安倍内閣の「国土強靭化計画」の応援団が、予算獲得のために出した本かと思ったら、脆弱で危機に瀕している日本のインフラの現状に警鐘を鳴らす内容で、一読に値すると思った。

「荒廃するアメリカ」の二の舞に

 「第1章 荒廃するアメリカ」は、「増加しつづける社会サービス項目に資金を回し、その結果予算収支のつじつまを合わせるために、建設や改修や維持管理の予算を削減する」、つじつま合わせ予算が、アメリカで1970年代に行われたため、80年代に顕在化した道路や橋梁の劣化による事故に焦点を当てている。かつてアメリカで起きたことが日本で起こらないようにと、次章以下では、道路、治水・利水、下水道、港湾、都市の各インフラについて分析と提案を行っている。

 日本では、財政再建を理由に1990年代後半からインフラ整備のための公共事業予算が大幅に削減された。ピーク時の1997年に比べ、半分以下に減少したという。それほどまでに減っていたのか、と率直に驚いた。

 腐食した橋脚、コンクリートが剥離した高速道路、コンクリート片が落下した国道トンネルなどの写真が恐怖感を煽る。

 橋梁、トンネルを2014~18年の過去5年間点検したところ、「構造物の機能に支障が生じている、または、生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態」のⅣ段階に分類された箇所が、橋梁で10%(約7万橋)、トンネルで42%(約4000カ所)にのぼった。

 「事後保全」から「予防保全」へと発想を転換しているが、緊急または早急に措置する必要のあるものの修繕ですら、22%しか着手されていないのが実態だ。

 老朽化が進むのは、道路や橋ばかりではない。堤防などの治水インフラ、岸壁などの港湾インフラでも老朽化が進む。

 また、昨年(2019年)秋に各地で起きた内水氾濫による水害が示すように、下水道整備も見劣りする。

 本書を読み「へえー」と思ったのは、単に予算を増やせ、と要求しているのではないことだ。たとえば、合流式下水道の改善事業を行い、水質の改善を図った大阪の道頓堀川や、下水道処理場の更新期にバイオマスや下水汚泥コンポストの利用によって、地域振興の拠点をつくった福岡市や佐賀市の事例、また、生産性向上に向けた群馬県八ッ場ダムの建設現場の取り組みを紹介するなど、新たな知恵や技術の可能性を示している。

国土管理に手間と費用がかかる日本

 最終「第7章 荒廃する日本にしてはいけない」において、日本の国土の特徴をこう書いている。

 ・地形が急峻で地質も脆弱
 ・地震が頻発し、耐震設計が厳格
 ・用地・補償費が高い
 ・自然災害に備えるには事前投資がかさむ

 だから日本は「国土管理に手間と費用がかかる宿命」を抱えている、と指摘する。たとえば高速道路建設コストはアメリカの2.6倍。うち用地費は5倍、工事費は2.6倍。工事費格差のうち8割は地震など国土構造の違いによるもの、としている。欧米と同じ土俵で比較するのは酷という国交省OBの嘆きも少しは理解できる。

 このままでは、インフラの二流、三流国になってしまう、という現状レポート。豊富な写真とグラフ、チャートが付いているので、一般の人が読んでも見飽きない。政策決定の役に立つことを望みたい。

  
  • 書名 荒廃する日本
  • サブタイトルこれでいいのかジャパン・インフラ
  • 監修・編集・著者名インフラ再生研究会 著、日経コンストラクション 編
  • 出版社名日経BP 発行、日経BPマーケティング 発売
  • 出版年月日2019年11月25日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数A4判・191ページ
  • ISBN9784296104468
 

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