読むべき本、見逃していない?

水漏れ、水余りだらけで日本の水道はどうなる?

  • 書名 水道が危ない
  • 監修・編集・著者名菅沼栄一郎、菊池明敏 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2019年10月30日
  • 定価本体790円+税
  • 判型・ページ数新書判・204ページ
  • ISBN9784022950390

 本書『水道が危ない』(朝日新書)のタイトルを見て、真っ先に思ったのは、水道の運営に外資が進出しているという最近の話題だった。諸外国では失敗に終わったのに、なぜ日本がいま導入するのか。しかし、本書はそのことに触れていない。外資がどうのこうのという以前に、水漏れ、水余り、見えない赤字で、日本の水道は危機に瀕しているということをテーマにしている。

日本は「水道水をそのまま飲める」数少ない国

 著者は朝日新聞地域報道部シニア記者の菅沼栄一郎さんと岩手中部水道企業団参与で総務省地方公営企業等経営アドバイザーの菊池明敏さん。取材で知り合った二人の合作だ。

 冒頭、日本は「水道水をそのまま飲める」9カ国のうちの一つであることが紹介される(国土交通省「日本の水資源の現況」平成30年度版)。ほかには、アイスランド、アイルランド、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、ドイツ、オーストリア、南アフリカがあるだけだ。水質基準もトップクラスだ。しかし、戦後の高度成長期に全国の隅々まで広がった水道管網は老朽化し、更新が追いついていないという。

漏水との闘い

 水道の現場には「無効率」という言葉がある。水道水が給水される過程で無駄になる年間の「無効水量」が「年間受水量」に占める割合で、無効水の大半は漏水だ。無効率30%超の事業体が全国に49ある(2016年度、水道統計)。最も高いのは群馬県長野原町の75.7%。8割近い水が漏れているのだから、地中に水を垂れ流しているようなものだ。

 菊池さんが岩手県北上市都市計画課にいた2010年6月に起きた水道管大漏水事故の記録が生々しい。浄水場近くの直径500ミリのメインパイプから毎時150~200トンの水が漏れ、現場は「海」のようになった。丸5日続いた「戦争」のような日々。これほど大規模なものは別として、小さな漏水事故は全国で日常的に起きているという。

水道のダウンサイジングを

 人口が減り続ける日本。水の使用量が減るのは当然だが、「節水」が浸透し、一人当たりの使用量も減っている。だから人口が増加している大都市でも使用水量は減少傾向にある。水道の収入源は使用水量に依存しているから、収入も減っていく。対処するには施設・設備のダウンサイジングしかない、と菊池さんは訴える。

 さらに下水道事業の問題が絡む。下水道は水道から遅れて整備が始まったので、老朽化が表面化するのは十数年後だ。多額の一般会計からの借り入れに頼っている下水道事業。もともと下水道料金は水道よりも安く設定されている。また、ほとんどの下水道事業は水道の使用水量を使って料金を設定しているので、水道の使用水量の減少は下水道使用料の減少に直結する。更新期には水道の数倍の費用が発生するため、大きな社会問題になるだろうと、警告している。

 菊池さんによると、全国の水道事業の稼働率の平均は約6割で、4割の施設は遊んでいる。費用削減には減価償却費と施設維持管理費の削減がカギとなる。水源や浄水場を広域運用する例として、菊池さんがかかわる岩手中部水道企業団の取り組みを紹介している。

 2014年に北上市、花巻市など4事業体による広域統合を果たした。東京23区の面積に匹敵する広さに人口は約22万人。水道管密度の効率は非常に悪い。統合後、5つの浄水場と水源を廃止し、老朽化した基幹的浄水場2つを更新した。また、職員をプロパー化することによって、マンパワーを質的、量的に増大した。

 水道は「経験工学」とも言われる。「歩く管路図」と呼ばれる技術屋トップは、ある地点の水量計の値が下がると、ただちに数種類の「漏水候補」を挙げる。地表に聴診器をあてて、かすかな音を探して、微妙なバルブの開閉で作業するという。広域化してから「無効率」がぐんと下がったそうだ。

ダムの治水効果に疑問

 本書では完成後に水を一滴も使わなかった富山県の3つのダムを取り上げている。全国でも水需要は減るのに、水源開発は続けられ、「水余り」の状況になった。中止になったダム事業の一覧が載っている。それでもまだ事業が続いているダムもある。今年の水害を受けて、群馬県の八ツ場ダムなどに「治水」の効果があったという声があるが、疑問視する専門家の意見を紹介している。国交省在任中に淀川水系流域委員会で継続ダム事業の中止など見直しに取り組んだ宮本博司さんは、「ダムは計画した水量ならば有効だけど、想定外の大雨がきたら効果は小さくなるし、一定以上の大雨だと、ダムの効果はまったくなくなる。風呂桶の水をお猪口で止めるようなもんですよ。ダムは最終的にパンクする」と話している。

 水は余っている、治水効果も期待できないとすれば、「多目的ダム」の名のもとに建設が進む全国のダムの意味はどこにあるのだろうか、と思わざるをえない。

 BOOKウォッチでは、水道関連で『日本が売られる』(幻冬舎新書)を紹介している。昨年(2018年)5月、企業に公共水道の運営権を持たせるPFI法を促進する法律が可決され、予想される問題を提起している。また、水問題をライフワークとする天皇が皇太子時代に出版した『水運史から世界の水へ』(NHK出版)も紹介済みだ。

 

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