読むべき本、見逃していない?

日本で女性首相が登場するのはいつの日

  • 書名 女性のいない民主主義
  • 監修・編集・著者名前田健太郎 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2019年9月21日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書判・224ページ
  • ISBN9784004317944

 『女性のいない民主主義』(岩波新書)というタイトルを見て、その通りだと膝を打つ人が少なくないだろう。男女平等の戦後の憲法にもかかわらず、何かと女性は差別されている。最近では私立医学部の男子学生優遇問題が記憶に新しい。夫婦別姓もしばしば論議になる。本書は主に政治の場で、女性の進出が遅れていることを取り上げている。

メディアも「女性議員」を特別視

 著者の前田健太郎さんは、1980年生まれ。東大文学部を出て同大学院法学政治学研究科修了。現在は同研究科准教授。著書にサントリー学芸賞を受賞した『市民を雇わない国家―― 日本が公務員の少ない国へと至った道』(東京大学出版会)がある。

 著者はまず、列国議会同盟(IPU)というところの調査結果を示す。それによると、2019年6月の日本の衆議院における女性議員は全議員の10.2%。議会下院での女性議員の割合としては世界192か国の中で163位。参議院は20.7%で、二院制の世界79か国の中で44位だという。

 内閣府の調査によれば、中央官庁の最高幹部である事務次官や局長など国家公務員の指定職相当に占める女性の割合は、18年7月現在でわずか3.9%にすぎない。経済開発協力機構(OECD)の行政機関の上級管理職に占める女性の割合の平均は33%。日本は29か国中で最下位となっている。政治や行政のトップレベルの世界で、日本では女性の進出が遅れていることがよくわかる。

 ちなみにメディアでは「女性議員」という用語がいまだに頻出する。著者が全国紙をしらべたところ、「男性議員」の10倍前後も出てくる。「標準的な議員が男性であるという想定の下、女性議員が例外として見なされていることの裏返しであろう」と指摘している。

「政治的平等」から女性が抜け落ちる

 著者は民主主義という言葉の定義を改めて振り返る。一つはヨーゼフ・シュンペーターが『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)で定式化したもの。「民主主義とは、政治指導者が競争的な選挙を通じて選ばれる政治体制を指す」。まあそうだろうと思う。

 さらに「ポリアーキー」という考え方も紹介する。これはロバート・ダールという人が1971年に提唱したもので「複数の支配」を意味する造語。「普通選挙権を付与する『参加』と、複数政党による競争的な選挙を認める『異議申し立て』という二つの要素から構成されている」。

 歴史を振り返ると、選挙権は高額納税者など特定の男性から男性一般へ、さらに女性へと拡大し、社会主義の崩壊で、形の上では複数政党制の国が大半になった。ゆえに女性の政治への進出に拍車がかかったのではないかと思いがちだが、著者は意外なことを伝える。1970年ごろ社会主義国では女性の議員が約3割を占めているところもあったが、一党独裁の崩壊後は皮肉なことに、激減している。あるいは日本では、戦後間もなく新憲法下で女性議員がどっと生まれたものの、その後は減少し、現在も戦後間もないころと大差がない。すなわち、「ポリアーキー」によって実現されるのは「せいぜい男性にとっての政治的平等」ということが見えてくる。

 というわけで本書では、「女性参政権を含む民主主義の指標」も紹介されている。いくつかのデータや指標が示されているが、簡単には要約できないので詳しくは本書をお読みいただきたい。

女性の首相はいまだ日本に登場せず

 世界を眺めると、英国ではサッチャー首相、メイ首相、ドイツのメルケル首相のほか、アジアでもインドのインディラ・ガンジー首相、韓国の朴槿恵大統領、フィリピンのコラソン・アキノ大統領、台湾の蔡英文総統など女性のトップは山のようにいる。残念ながら日本人の名がない。近い将来になりそうな人の名前も思い浮かばない。政党のトップでも、思い出すのは社会党の土井たか子委員長ぐらいだ。

 本書は冒頭で、城山三郎の『男子の本懐』を登場させる。主人公は浜口雄幸首相。決死の覚悟で政治家としての職務に臨むのが「男子の本懐」であり、「女は口がかたいのが何よりだ。女のおしゃべりはいちばんいけない」という浜口の言葉を紹介する。このような「政治は男性の仕事であり、女性は口を出すべきではない」という考え方は、戦前の日本に限らなかったようだが、「フェミニズム」「ジェンダー」などについての理解の広がりもあって、修正を図られてきたのが世界的な流れだ。その中で立ち遅れているのが日本、という姿が浮かび上がってくる。

 そういえば、BOOKウォッチで紹介した『日本の天井――時代を変えた「第一号」の女たち』(株式会社KADOKAWA)を思い出した。1985年の男女雇用機会均等法成立の立役者になる赤松良子・労働省婦人少年局長が当時、事前の根回しで経団連会長の稲山嘉寛氏を訪ねて法案への理解を求めた時の話だ。稲山氏から「女性に参政権など持たせるから歯止めがなくなって、いけませんなあ」と言われて仰天したそうだ。わずか30数年前のことである。

 『文系と理系はなぜ分かれたのか』(星海社新書)によると、日本の大学で社会科学系の学部に進学した女子は、1985年には1割以下だったが、2000年には27%に上昇、最近は39%にまで上がっているという。OECDの平均では約6割なので、まだ及ばないものの、じわじわと増えている。そうした女性の間から、政治を志す女性も増えてくるのか。これからに期待したいところだ。

 BOOKウォッチでは関連で『不思議の国会・政界用語ノート 』(さくら舎)、『<女帝>の日本史』(NHK出版新書)なども紹介している。

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