政界で女性議員が少しずつ増えてきた。それに呼応するかのように、男の世界と思われていた政治記者でも女性が目立っている。テレビのキー局ではすでに女性の政治部長も出ているし、NHKでよく見かける女性の政治記者は、安倍首相と親しいことで有名らしい。
本書『不思議の国会・政界用語ノート 』の著者、朝日新聞の秋山訓子さんも政治部次長を経て政治担当の編集委員。女性記者の目から見た永田町や霞が関の珍妙なルールや、興味深い慣習を紹介していてちょっと笑える。
20年ほど前、秋山さんが政治部に配属された時、女性記者はほとんどいなかった。部会で自己紹介するとき、目の前を見渡したら男性ばかり。「私は、グレーの世界に来てしまったんだと思いました・・・」と思わず口走ってしまったという。
政治部に来るまで、新聞でも政治面はほとんど読んでいなかったという秋山さん。それから必死になって走り、取材しながら勉強した。素人だったからこそ新鮮に感じた驚きの数々。その泣き笑いの積み重ねを振り返り、一般読者向けにわかりやすく政治の世界をつづったのが本書だ。
「政界用語ノート」というタイトルを見て、仲間内だけで通じる政界用語の解説なのかなと思ったが、実際には「フシギ体験」の面白本だ。全体を貫くのは「様式美」として見る視点。政治は伝統芸能保存会でもあるという。国会の慣例、議員のふるまい、政治取材のありかたなどあらゆるところに伝統が生き残り、受け継がれていると書く。
一例が「壁耳」。自民党本部内や各種政治家の会合など、重要な会議には記者が入れないことが多い。そこで生み出され伝統的取材方法が「壁耳」。記者が廊下で会議室の壁に耳をあて議論の様子を聞き取る。一種の「盗聴」だが、中にいる政治家は「壁耳」で聞かれていることを意識しながら話している。だから、聞いてもらいたい発言をわざと大きな声で話したりする議員もいる。取材する方もされる方も「様式美」に忠実なのだ。そういえば、政治記者の中にはテープレコーダーのように内容を記憶してしまう「壁耳達人」もいるという話を聞いたことがある。
3人以上の政治家の会合にまつわる話も笑える。先に席を立つ人は、残った誰かの肩に腕を回し、何か耳打ちをしてから去ることが多いそうだ。「私はこの人と内緒話をする仲」ということを周囲に見せつける。伝統芸能の所作のようなものだ。
本書を準備していた時は、まだ財務省事務次官のセクハラ騒動が起きていなかったと思われる。したがって残念ながら女性記者とセクハラについての見出しはなかった。次回以降の著作に期待したい。
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