原書を翻訳した自己啓発本はよくあるが、アメリカの人気講演家スティーヴ・チャンドラー氏の本書『自分を変える89の方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は他と一線を画す好著だと思う。
本書は、内向的だった著者が「人前で話すことを仕事にする」という夢を実現した体験的方法が書かれている。1996年に刊行され、全米で話題になった。その後世界25ヵ国20言語で翻訳出版され、現在も新たな読者を獲得するロングセラーとなっている。本書は、2013年に刊行された第3版『自分を変える89の方法』のデザインを変更し、再編集したもの。
時代も国も異なるが、著者の文章は身近な話題が多く共感できる。また、知人や著名人の言葉を引用することで内容に広がりを持たせ、飽きさせない。翻訳版は著者との距離が遠い感じがすることがあるが、本書は翻訳版であることを忘れるほど訳が自然で読みやすい。
著者のスティーヴ・チャンドラー氏は、米国ミシガン州生まれ。作家、講演家、経営コンサルタント。30社を超えるフォーチュン500企業、大学などの顧客を持ち、ビジネスコーチやセミナー講師を務める。30冊を超える著作があり、世界25ヵ国語で翻訳出版されている。
「本気になれば、もっとやれるのに」 「自分には才能がない」 「今は上司が悪い」「環境がよくない」 「あと3年後には......」 ――。いくら年齢を重ねても今の自分は道半ばであり、いつかもっとすばらしい自分になれる、といった漠然とした想いを持つ人は多いだろう。同時に、そう思っているだけで時間ばかりが過ぎていくことに焦りを感じているはず。
結局、思う以上に行動するしかない。本書は、著者が自身の体験をもとに磨きあげた「最高の自分」をつくるための89の方法が収められている。項目を一つずつじっくり読んで、自分のものにして、実践して、変化を感じる――。本書は一気読みするより、毎日少しずつ読み進めていくことをオススメする。
「生きる道は2つに1つ、自分の夢を実現するか、他人の夢を生きるかだ。心の炎を自分で燃やすことができれば、あなたは今すぐ理想の人生を歩むことができる」
「はじめに」で「心の炎は自分自身でつけることができる」「人間はやる気になったから行動するのではない。行動するからやる気が出てくるのだ」と、心の炎と行動の大切さを強調している。
心の炎は誰でも持つことができ、自分の力で燃やすことができる――。著者はこのことに気づくまでに50年以上かかってしまった、人生の最初の50年間は「何かが起こらなければ、火はつかない」と思いこんでいた、と書いている。
この箇所を読み、著者との距離がグッと縮まった気がした。もうこんな年齢だと焦り、どこかで諦めていたが、著者の体験がありのまま綴られていて「そうか、それでいいんだ」とホッとした。
著者は「本書は、私の人生を実験台にして書いた本だ。実際に効果のあったものだけをまとめている」と書いていて、なんとも説得力がある。
「自分が死ぬ日のことを想像してみる」「なりたい自分になったかのように行動する」「自分の『やる気ボタン』を見つける」などなど、生きることをより楽しく、尊く感じられる89のヒントが並ぶ。やろうと思えば、どれも今すぐできる。朝、家を出るときにある項目を意識して過ごそうと決める。夜、何か変化があったかと一日を振り返る。こうして、著者のように自分も実験したくなる。
どの項目もハッとさせられる言葉があり、すべてを紹介しきれないのが惜しい。ここでは「自分が死ぬ日のことを想像してみる」を紹介しよう。著者は心理療法士の指導で、次のエクササイズをしたことがあるという。
1 「自分がもうすぐ死ぬ」場面を想像する。そのときの自分の感情を具体的に思い描く。
2 あなたの大切な人が、1人ずつあなたを訪ねてくる場面を想像する。彼らに、死ぬ前に伝えたいことを考える。
3 それを声に出して、はっきり言う。
これにより著者が気づいたのは「実際に死ぬ直前まで待たなくても、もうすぐ死ぬつもりで行動できる」こと、「いつか死ぬという自覚がなければ、人生というすばらしい贈り物に心から感謝することはできない」ことだった。
「私自身も含めて多くの人々は、ずっと自分をだまして、人生というゲームには、終わりがないかのようにふるまっている。何かをやりたくても、その気になったら始めようと考え、ずっと先延ばしにしている」
いつか、いつかと未来に漠然とした理想を思い描くのではなく、今ここで具体的な行動をとることが大切だと教えられた。最後に「今日1日で自分を5パーセント変える」から次の言葉を紹介しよう。
「自分は未完の傑作だと思うなら、小さな変化を大切にしなければならない。......自分を変えたいなら、いちばん小さい変化から始めよう。偉大な芸術作品を創造するように。すべてはほんの小さな筆の動きから始まるのだ」
考えるばかりでなかなか行動に移せない人、そんな自分を変えたい人は、ぜひ本書を読んでほしい。評者はまさにそのタイプだが、ぼやけていた人生のピントが、本書を読みながら少しずつ定まっていくのを感じた。
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