鮮やかな紫色のカバーが目を引く。本書『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)は、韓国のイラストレーター兼作家のキム・スヒョンさんによるイラストエッセイ。「日々を懸命に生きる、平凡な私たちへのエール」が国境を越えて共感を呼び、韓国で70万部、日本で15万部(2019年5月現在)を突破した。
「何から何まで中途半端。年齢も、経歴も、実力も......。なぜ、私はみじめだと感じるのか。なぜ、私は不完全なのか。なぜ、私は何者でもないのか」――。こうした無力感を覚えたことのない人は、おそらくまれだろう。本書は、著者自身が感じてきた「私がなぜ自分をみじめだと思ったのか、何が私をみじめにさせたのか」という疑問への答えを導き出していく。
「Part1 自分を大切にしながら生きていくためのto do list」「Part2 自分らしく生きていくためのto do list」「Part3 不安にとらわれないためのto do list」「Part4 共に生きていくためのto do list」「Part5 よりより世界にするためのto do list」「Part6 いい人生、そして意味のある人生のためのto do list」から成り、各Partに10個前後の項目が並ぶ。特に印象に残った言葉を紹介したい。
「子どものころの幻想と期待から抜け出して、特別ではない普通の人として自分の人生を築こう。大人がやるべき宿題とは、そういうものなのかもしれない」
(「普通であれば十分に幸せ」)
「生きていれば、おかしなことも起こりうる、人生にはこのくらいの無駄はどうしても必要だ、人生は常に効率的なんてことはありえない、初めての人生だから自分にはちょっと難しかった、と思おう」
(「人生に余白と失敗のための予算を確保しよう)
著者は、本書のゴールを「ごく普通の私が、他人を妬むことなく冷たい視線に耐えながら、ありのままの自分として生きていくために」としている。著者自身を含む「普通の人」に「そのままでいい」とストレートに語りかけるその誠実な言葉と発想力豊かなイラストが、本書を特徴づけている。
著者のキム・スヒョンさんは、イラストレーター兼エッセイスト。本書の韓国語版は2016年に刊行された。大学卒業後に大企業の就職に失敗した経験から自身を見つめ直し、「他人に認められることで自分の価値を証明」しようとしていたと気づく。「誰かの期待に応えるために生きるのではなく、自分のために、自分らしく生きよう」との呼びかけが、韓国社会で広く共感を呼ぶ。
訳者の吉川南さんは「韓国の若者たちが抱いている不満や不安、怒り、やるせなさを、著者が代弁し、読者にやすらぎや勇気を与えてくれた」「同じ悩みを抱える日本のみなさんにも、大きな力を与えてくれることだろう」と結んでいる。
評者の場合、韓国との接点はK-POPとニュースだけだったが、本書を読み、外からではなかなかわからない韓国社会に根づく価値観(なんでも数字に置き換えるのが好き、集団の調和を重んじるなど)に初めて触れた。評者と同世代の著者が韓国を、世界をどう見ているのか、生きることについてどう考えているのかを知った。日本の中で悶々と考え続けるより、一度思考の舞台を日本の外に置くことで視野が広がり、より多様に自分の生き方を掘り下げていけるだろう。
本欄では韓国でミリオンセラーになり、日本でも話題の『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)も紹介している。また、「韓国・フェミニズム・日本」を特集した文芸誌「文藝」が発売5日で異例の重版になったことも伝えている。
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