読むべき本、見逃していない?

無差別射殺事件のさなか被害者がとった行動は?

スワン

 直木賞候補になった作品のうち、未読だった4作品を読んでみた。順次紹介する予定だ。まずは呉勝浩(ご・かつひろ)さんの『スワン』(株式会社KADOKAWA)から。呉さんの作品は大藪春彦賞を受賞した『白い衝動』(講談社)と『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』(光文社)の2冊をBOOKウォッチで取り上げている。事件の加害者と被害者双方の心理に迫る、その世界観には定評がある。

生き残った被害者がメディアとネットの標的に

 『スワン』は、2019年10月31日に発売され、早くも3刷りになった。TBS系『王様のブランチ』でも特集が組まれるなど、各メディアでも注目されている。

 埼玉県東部の架空の町、湖名川にある巨大ショッピングモール、湖名川シティガーデン・スワンで無差別射殺事件が起きる。犯人の若者3人は、3D技術で模造拳銃を大量につくり、2発しか発射できないが、銃を次々に取り換え、犯行を続けた。その結果、21人が亡くなった。

 犯人の1人は仲間に殺され、2人は犯行現場で自殺していた。世間の指弾は、最初は犯人グループ、そして事件の拡大を食い止めることが出来なかった警察、警備員へと向き、最後に生き残ったある被害者へと向かった。

 バレエに打ち込む高校生のいずみは、悲劇の渦中で犯人と接しながら生き延びた。しかし、同じく事件に遭遇し片目を失った同級生・小梢により、次に誰を殺すか、いずみの指名によって犯行が行われたという「事実」が週刊誌で暴露される。

 二人は同じバレエ教室に通うライバルでもあり、「白鳥の湖」の役をどちらが演じるか競っていた。小梢によって学校ではいじめの標的となっていたいずみは、「スワン」に小梢から呼び出されていたのだ。

 「は? 友だちと子ども見殺し? この女を刑務所にぶち込む法律が必要だろ」
 「状況が......というのは言い訳にすぎません。まさにそうした極限状況で、その人間の本性が試されるのだとわたしは思います」
 「冷血女の写真あげとく。トリプルスコアでこずえたんの勝ち」

 ネットにはいずみの名前と住所もさらされ、容赦ない書き込みが続いた。

被害者だけの「お茶会」

 そんななか、いずみに弁護士から招待状が届く。集められたのは事件に巻き込まれ、生き残った5人の関係者だった。事件で殺された女性の遺族が、真相を知るために招いたのだ。「お茶会」と呼ばれるようになった、その会合には謝礼とボーナスが用意されていた。しかし、嘘をつくと減額される。

 犯人グループは犯行を動画で撮影し、いくつかに分割して自動的に配信していた。それらは削除されたものの、保存されているものもあった。弁護士はその画像を入手していると言った。減額されたり、ボーナスがもらえたり、いったい誰がどんな嘘をついているのか。本作は事件そのものを描くのではなく、その後日談から事件のある真相に迫るというものであり、後半は作者と読者の知恵比べの様相を呈する。

 何回かの「お茶会」の後、一人の消息が途絶える。会の本当の目的は何なのか? そして参加者はいったい誰なのか? 最後に驚くべき事件の様相が明らかになる。

架空と現実のあわいに

 犯行現場は架空の町になっているが、いずみの住所は実在する埼玉県三郷市となっている。東京都と千葉県に隣接し、江戸川と中川に挟まれた土地だ。

 東京周辺では珍しく開発が遅れた地域だったため、周辺には最近になり大型のショッピングモールの進出が相次いでいる。武蔵野線沿線に住む人であれば、「スワン」が実在する、ある施設を模したものであることがすぐに分かるだろう。

 前作の『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』は、福島悪魔祓い殺人事件、尼崎連続変死事件、北九州監禁殺人事件など、現実に起きたいくつかの連続殺人事件からインスパイアされていた。

 また、本作の犯人グループ「エレファンツ」は、アメリカで起きたコロンバイン高校銃乱射事件を題材にした映画「エレファント」から付けられたものである。そんな架空と現実のあわいに位置する作品でもある。

 呉さんは1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。2015年に『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー、2018年には『白い衝動』で第20回大藪春彦賞を受賞と、ミステリー作家として着実にステップアップしている。本作で直木賞を受賞するか注目される。

 作者は大学で映像を専攻しただけに、どの場面もすぐに映像が浮かんでくる。「スワン」を舞台にした、この惨劇をどう描くか監督の力量が問われるだろう。もうすでに名乗りを上げている監督もいるかもしれない。

  • 書名 スワン
  • 監修・編集・著者名呉勝浩 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年10月31日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・380ページ
  • ISBN9784041086391

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?