読むべき本、見逃していない?

小説内小説『毒母VSメンヘラ娘』が「袋とじ」でオマケに付く新機軸小説

雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール

  『道徳の時間で』で江戸川乱歩賞、『白い衝動』で大藪春彦賞を受賞した呉勝浩さんの新作『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』(光文社)は、タイトル通りぶっとんだ小説だ。

 千葉県印西市で起きた猟銃乱射事件から3年。被害者の一人、雛口依子は犯人の妹・葵と出会い、いまだ解明されない事件の真相をルポに書くため、行動をともにする。こう書くと、シリアスなミステリーのように思われるが、そうではない。

 依子の家族は崩壊していた。父は何をしているのかよく分からないが、借金を抱えて失踪する。母はボランティアと称して家を空けることが多い。兄は家庭内暴力をふるう凶暴な男で、家から離れたマンションから落ち、死にかけるが蘇生し、以後記憶を失いおとなしくなる。20歳の依子にしてもいわくつきの過去があるらしく、中学には行ったこともなく、電車に乗るのも一苦労なくらい社会常識がない。一般的な倫理や道徳も欠落しているようだ。ともかく厄介な登場人物ばかりだ。

 葵にこれまでの半生を語るうちに、「色川の伯父さん」の家で何度か過ごした奇妙な共同生活が明かされる。まだ家族で暮らしていた頃、依子の唯一の楽しみはオヤジ週刊誌に連載されている小説『毒母VSメンヘラ娘』を読むことだった。母娘が男を巡り、あの手この手でいがみ合うストーリー。共同生活では「色川の伯父さん」によって奥義とルール、「おつとめ」が強要されていた。奥義の書39章「運命の法則は、従順を以って和を成す」にあるように伯父さんに絶対服従し、自分の意思を持たないようになっていた依子だが、『毒母VSメンヘラ娘』の続きを読みたい一心で、ルールを破り「外部」と接触し、そこから共同生活の秘密と猟銃殺人事件の真相が浮かびあがる。

 この共同生活は、福島悪魔祓い殺人事件、尼崎連続変死事件、北九州監禁殺人事件など、現実に起きたいくつかの連続殺人事件からインスパイアされているように思える。物語は宗教、詐欺、暴力などがからんだホラーの様相を途中呈してくる。しかし、終盤に物語は疾走、依子と葵の語りのパワーに読者はすっかり魅了され、最後は一種のビルディングスロマン(成長小説)の趣もする。このジャンル破りの本書は著者の転回点になりそうな気がする。

 巻末には小説内小説とも言える『毒母VSメンヘラ娘』の連載3回分が袋綴じで付いている。このサービスも気がきいている。  

  • 書名 雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール
  • 監修・編集・著者名呉勝浩 著
  • 出版社名光文社
  • 出版年月日2018年9月30日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・399ページ
  • ISBN9784334912383

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