読むべき本、見逃していない?

NHKと朝日新聞で紹介された「校則のない中学」とは

  • 書名 校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール
  • サブタイトル定期テストも制服も、いじめも不登校もない!笑顔あふれる学び舎はこうしてつくられた
  • 監修・編集・著者名西郷孝彦 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2019年11月11日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784093965460

 本当にこんな中学校があるのだろうか。『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール』(小学館)。サブタイトルに「定期テストも制服も、いじめも不登校もない!笑顔あふれる学び舎はこうしてつくられた」とある。話がうますぎると疑るのが普通だろう。実際のところは朝日新聞やNHKで紹介されている。つまり、本当にあるのだ。

教員が変わると学校も変わる

 「はじめに」でこう記されている。「東京・世田谷区立桜丘中学校には、校則がありません。定期テストもなければ、宿題もありません。チャイムも鳴らなければ、教員が生徒を強い口調で叱ることもありません。ほかの中学校にある"当たり前"が、何ひとつありません」。

 本書の著者は同校校長の西郷孝彦さん。「いろいろな差別もいじめもありません。あるのは、子どもたちの笑顔だけです」。

 桜丘中は東京の世田谷区にある。都内の小学校の私立中への進学率は18.0%。教育レベルの高い世田谷区では33.1%。中でも桜丘中の学区では小学校卒業生の約半分が私立に進むという。この数字を見ただけで、桜丘中の置かれている環境が想像できる。

 西郷さんが10年前に赴任してきたとき、桜丘中学は教育関係者の間で、世田谷区の中でも"元気な中学"ということで知れ渡っていた。前任の校長からこう言われたという。

 「大変だろうけど、あとは自由にやりなさい」

 その意味はすぐに分かった。教員は生徒を怒鳴り上げて威圧する。そうしないと、ざわついて朝礼もまともにできないからだ。その様子を見た西郷さんは教員に、「上から目線で生徒を威圧するのはやめましょう」と説いた。教員が変わると学校も変わる。そこから少しずつ始めた。

養護学校の子どもたちに学ぶ

 本書は、【第1章 あれもこれも「ない」中学校】、【第2章 「ない」中学校に、こうしてなった】、【第3章 子育ては15歳まで―― 親と子の関係】、【第4章 学校レポート/"これからの子どもたち"の育て方】からなる。最初は荒れていた中学をいかにして立て直したか。そのプロセスがこってり書かれている。

 西郷さんはちょっと横道から中学の教員になった人だ。教育学部出身ではない。工作や機械いじりが好きで上智大学理工学部に入った。就職氷河期だったこともあり、工学系への就職はあきらめる。教員なら夏休みがある、好きな時間を過ごせると思って教職に。最初に配属されたのは「養護学校」と呼ばれていた特別支援学校だった。

 自分で食事や排せつができない子どもがたくさんいた。しかも、さらに悲しい現実があった。例えば筋ジストロフィー。徐々に筋力が低下していく。やがて体を動かすことも、話すこともできなくなり、亡くなる子もいた。人づきあいが苦手で、理系の、狭い世界に閉じこもって生きていた西郷さんにとっては初めて知る驚きの世界だった。

 やがて、この子どもたちの人生が平均より短いからといって、決して意味がなかったというわけではない、逆に短いぶん、一日一日が大切だ、今まで漠然と生きてきた自分のほうが薄い人生だったのかもしれない、という思いに至る。養護学校の子どもたちに学び、教えてもらった経験が教員生活の基礎になった。

窓ガラスを割ったら弁償

 偶然、『みんなの学校』という映画を観たことも大きかった。不登校ゼロを目指す大阪市立大空小学校の一年間を追ったものだ。問題を抱えている子が多数登場する。この小学校の決まりはただひとつ。「自分がされて嫌なことは、人にしない、言わない」。

 ところがこの小学校を卒業しても、あとは特別支援学校に行くしかないのだという。そのとき、西郷さんは決意した。よし、中学は任せろ! 東京と大阪、ちょっと離れているけれど、桜丘中学を大空小学校のような中学校にしてみせる、と心に決めたのだ。

 服装・髪型は自由、スマホ・タブレットの持ち込み自由、登校時間も自由、授業中に廊下で学習するのも居眠りも自由と。自由だらけの桜丘中学。

 しかし、単に子どもたちに甘い、ということではない。定期テストはないが、ミニ勉強会や積み重ねテストはある。校則はないが、なんでも許されるわけではない。窓ガラスを割った生徒には故意であろうが過失であろうが、原則弁償してもらう。反省文でおしまいではない。子どもたちに社会のルール、法を知ってもらうためだ。

3Dプリンターで心臓を作る

 本書を読んで記憶に残るのは、西郷さんの「多様性」への目配りだ。「養護学校」が原点だから、発達障害やLGBTには特に注意している。なかには修学旅行で皆といっしょに浴場に入るのが辛い子もいる。それを踏まえて、あちこちの旅館と交渉したりしている。

 「夜の勉強教室」もやっている。共働きの子どもは一人で夕食を食べることも少なくない。開催は月一回だが、100円で夕食が付く。基本は自習だから教員の負担は少ない。ボランティアが支えてくれる。

 新しいことにも挑戦している。たまたま大学時代に3Dプリンターを用いた研究をしていた先生がいた。そこで理科の授業に3Dプリンターを導入してみた。子どもたちがプリンターで心臓の模型を作る。将来はコンピュータの勉強をしたいと目を輝かせる生徒も出てくる。英語だけの調理の授業もやっている。先生と英語でやり取りしながら巻きずしを作っている。とにかくユニークなことだらけ。それゆえ全国から学校見学が引きも切らない。

 ところでタイトルに入っている「たった一つの校長ルール」とは何か。それは本書を読んでのお楽しみだ。

 

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