学校の校長先生や、教育熱心な親が聞いたら目を剥きそうなタイトルだ。『学校は行かなくてもいい ――親子で読みたい「正しい不登校のやり方」』(健康ジャーナル社) 。見方によっては「不登校のススメ」のようにも思える。義務教育をないがしろにするのかという「正論」の怒りが聞こえてきそうだ。
本書の著者、小幡和輝さんは現在23歳。約10年の不登校ののち、定時制高校から和歌山大学に進んだ。すでに高校3年生のときに起業しており、いまは学生にして社長でもある。そういう屈折した体験を持つ小幡さんが、不登校の子どもたちに送るメッセージが本書だ。体験者ならではの切実な思いが詰まり、なかなか興味深い。
小幡さんが不登校になったきっかけは小学校2年のときだ。「3から5をひく」という問題でクラスの皆が悩んでいた。小幡さんは自信をもって「マイナス2」と答えた。それが良くなかった。「小幡君はすごいね」と賞賛されるかと思ったら、皆はキョトン。知識がありすぎていたことが原因で、逆に気まずくなり浮いてしまったのだ。次第に休みがちになる。ある日、ガキ大将から理由もなく殴られたことで、ついに学校に行かなくなった。近所に住む5歳年長のいとこも不登校だったので、いっしょに遊んだ。ゲームに没頭し、3万時間はついやしたという。
こうした不登校の体験記が本書にはたくさん出てくる。有名人では、起業家の家入一真さん。中学2年のとき、友達から内々に聞いた話を「これはウケる」と思って皆に話したことがきっかけで仲間外れになった。「学校に行ってきます」と言って家を出るのだが、納屋などに隠れていた。そのうち見つかり、無理やり学校に行かされるのだが、学校に行っても、いつも一人なのでまた行かなくなる。高校に入ってやり直そうと思ったが、また不登校になり、1年で退学した。
小幡さんが不登校から立ち直ったのは、定時制高校に進んでから。そこには社会のレールから少し外れたいろんな仲間がいて面白かった。そしてある日、ライブのコンサートの手伝いに誘われたことがきっかけで人生が変わった。いつも一人でゲームをしていた小幡さんが初めて「チーム」で何かをするということの感動を知ったのだ。自分がみんなの役に立っている!
コンサートのサポートでイベント経験を積んだ小幡さんは、自分でもイベントの企画をやりたくなる。「和歌山県の良いところを高校生に見つけてもらうワークショップ」「あいている時間のカフェを借りたコンサート」。そしてイベントを仕事にしようと思い、会社をつくる。最初の企画のホリエモン講演会は満員御礼。今では中学・高校・大学に呼ばれて自分の不登校体験の講演もしている。
著者は義務教育を否定するわけではない。ただし、学校に行かない、というのも選択肢としてあることを強調する。現在の学校教育はあまりにも画一化し、平均点を要求しすぎるという指摘はその通りだろう。勉強が得意な子もおれば、スポーツ、芸術、ゲームが得手な子もいる。学校が、それぞれの固有の能力を伸ばせる場所になってほしいと著者は願う。
評者はかつて、英国の大学入試では選択科目に「ダンス」があると聞いて驚いたことがある。米国の名門大でも「スポーツ加点」があるそうだ。だから米国の高校生は、スポーツでも頑張るのだという。
本書の文章は非常に読みやすい。小学生でも読めるだろう。くわえて全体の組み立てもメリハリが利いている。インタビューや、漫画による説明も豊富だ。
この手の本というと、不登校問題に詳しい教育関係者が書いていたり、子供を立ちなおらせた親の話だったりすることが多いが、本書は不登校生のリアル体験なので、実感がこもる。著者は本書を通じ、「不登校の子どもって、こんなことを考えているのか」ということを保護者に知ってもらいたいという。そして、「これは面白いから読んでみたら」と不登校の我が子に勧めてもらいたいという。
著者によれば、なんとなく毎日学校に行くよりも、自分の意思で不登校を続けることの方が、よほどエネルギーがいるという。家族や近所の目や学校に逆らっているのだから当然かもしれない。だから「逃げる」という言葉を、もっと肯定的にとらえてもらいたいという。
本書では、「学校に行かなくても『大丈夫』になるためのアドバイス」という一章も設けられ、丁寧に「ひきこもり自習」「独学」についても書かれている。
著者にとって学校は「本当は行きたかった場所」だ。「不登校だったころの僕が、行きたいと思える学校をつくりたい」――それが著者の将来の夢だ。
著者の一生懸命ぶりが伝わり、読後感がさわやかだ。「ひきこもり」「不登校」などで悩む子どもたちの真実の思いが詰まった本だと思う。日本の小中学校の不登校生徒は約14万人もいるそうだ。がまんしながら、やっとことで通学している子どもも多いはずだ。学校の図書館にはぜひ置いてほしい。
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