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高齢者の犯罪が増えている・・・これは統計のマジックだ

凶暴老人

 おっかないタイトルの本だ。『凶暴老人――認知科学が解明する「老い」の正体』(小学館新書)。このタイトルを見れば、誰でも高齢者が凶暴になっていると思うだろう。ところが、著者の川合伸幸・名古屋大学大学院情報科学研究科准教授は、必ずしもそうは考えていないようだ。というわけで、本書はタイトルと内容にちょっと落差がある。

女性の半分は50歳以上

 マスコミ報道では最近、ちょっとしたことでキレる高齢者の話題がよく出てくる。駅員に食ってかかったり、店員にしつこく絡んだりする高齢者の姿を、実際に見聞きした人も少なくないだろう。したがって最近は怖いジジイが多い、気を付けなければ、と思うのは自然かもしれない。

 ところがここで冷静な人は、ちょっと待てよ、と立ち止まるはずだ。少子高齢化社会になり、高齢者が増えている。絶対数が増えているのだから、おかしな案件も増えるのが当たり前ではないかと。

 本書もそのあたりについて注意を促す。今や日本人の女性の約半分は50歳以上。全人口の4分の1が65歳以上。様々なデータ分析から著者は、「増加傾向にあるといわれてきた高齢者の犯罪は、日本全体の人口に占める高齢者の人数が増え、逆に少子化で若者の数が年々減少しているので、そのバランスの変化を反映しているだけ」。統計のマジックに気を付けるように促している。読者はいったいどうなってんの、と戸惑ってしまうことだろう。

 さらに著者は、このタイトルは編集部が付けたもので、「内容はわたしに任せてもらう。実証的な事柄から逸脱した話はしない。高齢者を揶揄する本にはしない」という条件付きで執筆を引き受けたと明かしている。実際のところ、高齢者はそれほど凶暴な犯罪は犯していないという。

運動が大切

 ただし、高齢者の犯罪についてはちょっと気になるデータもある。検挙数の内訳で「暴行」が増えているのだ。相手にけがをさせるわけではない。ちょっとしたいざこざ、胸ぐらをつかんだり、コップの水をかけたりするのも暴行に含まれる。凶暴というほどではないが、カッとなってやってしまう。サザエさんのお父さんなら「バッカモーン」どまりだが、手を挙げてしまうようなケースだ。

 こうした事案は若者の間では普通にある。ありすぎるので話題にならない。大人、特に老人は人生の経験も豊富で、なだめたり、とりなしたりする側だという世間常識があるので、年寄りがキレたりすると目立ってしまう。

 著者は認知科学や実験心理学の専門家。その立場からの研究によると、高齢者は前頭葉の機能のうち「抑制機能」が弱いのだという。認知機能にまったく問題のない高齢者でも、反応しようとした行動を、途中でやめるのが苦手だということや、渋滞や赤信号が連続すると、高齢者はイライラしやすいということもわかってきた。

 こうなると、誰もがキレやすい老人になりうるということだろう。本書の後半では「キレない高齢者」になるための鍛え方や、社会がいかにして老人たちと上手に共生すべきかなども説いている。「有酸素運動によって抑制機能が高まる」「運動習慣のある高齢者は抑制時にしっかりとした脳波が出現する」という。おかしな老人、恥ずかしい老人にならないために、せめてウォークなどを心掛けるようにしたい。

  • 書名 凶暴老人
  • サブタイトル認知科学が解明する「老い」の正体
  • 監修・編集・著者名川合 伸幸 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2018年10月 3日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書・222ページ
  • ISBN9784098253166

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