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着るだけで涼しくなる服を開発した「下町ロケット」みたいな社長

社会を変える アイデアの見つけ方

 何かとてつもないアイデアが思い浮かんで実現させ、ビジネスで成功する。そんな夢を見ている人は少なくないだろう。それが世の中のお役に立つようなら、なおうれしい。

 本書『社会を変える アイデアの見つけ方――ゼロから100億円市場を生み出した小さな会社の技術と発想法』(クロスメディア・パブリッシング)は、まさにそんな夢を実現させた技術者にして実業家、市ヶ谷弘司さんの実践的な指南本だ。

ファン付きの空調服を発明

 市ヶ谷さんは1947年生まれ。二つの肩書がある。一つは「株式会社セフト研究所社長」。もう一つは「株式会社空調服会長」。100億円市場を生み出したのは、後者の「空調服」だ。

 本書の説明によれば、ファン付きの空冷服。人体が本来備えている生理クーラーをより積極的に活用できるようにする空調装置で、服にとりつけた電動小型ファンによって服の中に外気を取り入れ、体の表面に大量の風を流し、汗を気化させて、涼しく快適に過ごすための製品だという。要するに服にファンが付いており、それを使って体内に風を通して体を冷やすのだろう。まともにつくれば、昔の宇宙服や潜水服のような大型のものになってしまうから、随所にハイテクが使われ、工夫がされていると推測できる。

 1999年から開発に着手し、試行錯誤を続けながら2004年に完成、05年から商品として販売しているそうだ。相当なお値段かと思いきや、ネットで調べると、数千円台から売っている。今年の夏のような猛暑の時は、建築現場、配達、警備員など炎天下で野外作業する人たちには有難かったのではないか。社会のお役に立っている商品だと言える。

もとはソニーで技術者をしていた

 このような発明をして、本書を書き下ろすぐらいだから、市ヶ谷さんは凡庸な人ではない。もとはソニーで技術者をしていた。ブラン管の製品部門に配属されながらも、社内アイデアコンクールに参加。光を電気に変換し音を出す笛を考え、ソニー創業者の一人、井深大会長に評価されたこともあるという。

 本格的に商品開発をしたくて91年にソニーを退社し、「株式会社セフト研究所」を設立。ほとんどエネルギーを必要としないクーラーを開発中に「生理クーラー理論」を着想して、それが「空調服」につながったという。こうした経緯を知ると、市ヶ谷さんにはエンジニアとしての基礎があり、アイデアマンだということがわかる。大手企業をスピンアウトした小さな町工場の社長が、ゼロから100億円を作ったというストーリーは、どことなく最近話題の「下町ロケット」にも似ている。

 本書を一読して感じるのは「知」に対する誠実な姿勢だ。「知らないことは必死で勉強する」「教養がアイデアを豊かにする」「どんな知識を土台にするかが発想の価値を決める」などが強調されている。

 著者自身は「勉強することが苦痛で仕方がない」「頭の回転は遅く、弁は立たず、立ち回りが下手で、会社での出世競争に敗れた」人間だという。ただし、「好奇心が強く、考えることが好き」という一面があり、そこを伸ばしたことが成功につながったと分析している。何か新しいことをやりたくて悶々としている技術系の人にとっては、参考になる話が詰まっているような気がする。

  • 書名 社会を変える アイデアの見つけ方
  • サブタイトルゼロから100億円市場を生み出した小さな会社の技術と発想法
  • 監修・編集・著者名市ヶ谷 弘司 著
  • 出版社名クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
  • 出版年月日2018年8月 2日
  • 定価本体1280円+税
  • 判型・ページ数四六判・237ページ
  • ISBN9784295402244
 

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