読むべき本、見逃していない?

島本理生さん「お し ま い」に込めた意味

夜 は お し ま い

 小説を読み終えたとき「さて、これをどう紹介しようか」と、途方に暮れることがある。毎回読みはじめるとき、どんな小さなサインも見逃さず、深読みしようと心に決めているのだが......。

 島本理生さんの本書『夜 は お し ま い』(講談社)は、いくら注意して読んでもそうそうすんなり理解できる作品ではなかった。BOOKウォッチでは、島本さんの『ナラタージュ』『ファーストラヴ』『夏の裁断』『あなたの愛人の名前は』を紹介してきたが、これまでで最も所々でつっかえ、頭を悩ませることとなった。

 一方、うっすらとした暗闇にいるような感覚だったり、どこまでも描き切る究極の官能表現だったり、島本さんの作品らしさを堪能することもできた。

神父のもとを訪れる4人の女性

 本書は4話からなる連作短編集。「性とお金と嘘と愛に塗れたこの世界」を生きる4人の女性が、秘密を抱える神父・金井のもとを訪れる。

 キリスト教、神、罪悪感といった宗教的なテーマを観念的な文章で描いている。帯には「深い闇の果てに光を掴もうとする女性たちの、闘いと解放」「逃げ道のない女という性を抉るように描く」とある。

 女性であるがゆえに辛い想いをした経験があったり、キリスト教の知識があったり、という前提のない読者にとってはとっつきにくいかもしれない。1話にある一文「私はキリスト教徒ではないので、金井先生の言っていることを理解するには時間がかかるのです」の心境にピタリとあてはまる読者は多いだろう。

「夜のまっただなか」
 大学のミスコンで最下位になりショックを受けた私。その後知り合った男と関係を持つ。あるとき男が避妊しなかったため、私は病院へ行くことになる。
「サテライトの女たち」
 お金のために愛人業をする私。中年男を見下し、騙してお金を手に入れようとしたが嘘がばれる。お金と引き換えに、中年男は私に異常な性行為を求めてくる。
「雪ト逃ゲル」
 夫と子がいながらKと逢瀬を繰り返す作家の私。誘われるままに寝た男は他にもいる。幼い頃に父親から受けた性的虐待が引き金となり、自分を責めつづけている。
「静寂」
 相談者の女の子に密かに想いを寄せるカウンセラーの私。異性との肉体の触れ合いを越えて、同性、身内との触れ合いを考える。金井の抱える秘密がここで明かされる。

 過去の体験に傷つき、罪悪感を抱いている女性が、金井との対話によって、絶望的な状況から這い上がり、自分を立て直していく姿が4話に共通している。

「純文学はこの作品で一区切り」

 本書に収録された4話の初出は「群像」2014年11月号、2015年3、8、9、12月号。島本さんが初めて官能というジャンルにチャレンジした『Red』と昨年(2018年)直木賞を受賞した『ファーストラヴ』の間に書かれたものだという。

 本書は「あとがき」も「解説」もない。なにも手がかりがないまま理解を深めるのはハードルが高い。ここでは、講談社のwebマガジン「mi-mollet(ミモレ)」に掲載されている島本さんのインタビュー記事を一部引用したい。

 島本さんは「純文誌で小説を書くのはこれが最後」という意味を込めて、本書のタイトルをつけた。それが改稿を進めていくうちに、次のような気持ちになっていったという。

 「この小説にとっての『おしまい』ってもう少しポジティブな意味でもあるかな、と......。夜が明けていくときのような、暗闇の中で光が見えてくるような感覚でおしまいにするのがちょうどいい気がしたんです。それなら......少し余韻を残すような一マス空きの『お し ま い』にしよう、と」

 3話の主人公が幼少期にした体験は『ファーストラヴ』の主人公(養父を殺害した女子大生)と重なるところがあるが、両者のちがいも語っている。

 「この小説では主人公たちがまだ混乱と光の両方の中で生きていて、『ファーストラヴ』ではそこに物理的な解決や決着をつけた。その対比や、小説としては共通するテーマを読者が感じ取って、なにか得てくれたらいいかな、と」

 最後に、島本さんは「たぶんこれ以上は同じことのくり返しになってしまうので、純文学はこの作品で一区切りが着いたかな、とも思っています」という言葉でインタビューを締めくくっている。

 島本さんの作品が放つ独特な雰囲気は癖になる。ジャンルを問わず、島本さんの今後の作品がますます楽しみだ。

  • 書名 夜 は お し ま い
  • 監修・編集・著者名島本理生 著
  • 出版社名株式会社講談社
  • 出版年月日2019年10月23日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六変型判・210ページ
  • ISBN9784065171486

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