本書『ファーストラヴ』(文藝春秋、2018年)は、第159回直木賞を受賞。著者の島本理生は35歳。これまでにも、芥川賞、直木賞候補に度々名前が挙がっている。
「正直に言えば、私、嘘つきなんです。自分に都合が悪いことがあると、頭がぼうっとなって、意識が飛んだり、嘘ついたりしてしまうことがあって。だから、そのときもとっさに自分が殺したことを隠そうとしたんだと......」
夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。アナウンサー志望の環菜は、キー局の二次面接の直後、養父の勤務先である美術学校で彼を刺殺した。環菜の美貌と、逮捕後に警察に対し「動機はそちらで見つけてください」と発したことで話題を呼び、事件はマスコミで大きく取り上げられた。
臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼される。由紀は夫・我聞の弟で弁護士の迦葉(かしょう)とともに、環菜本人や彼女と過去に関わりを持った人物たちと面会を重ねる。そして、環菜の成育環境に潜む異常性を明らかにして、彼女が殺人事件を犯すに至った真相を追究していく。
この大筋のストーリーとともに、もう1つ、由紀と迦葉の関係性の秘密に迫っていくストーリーが描かれている。「環菜の過去をたどっていると、私たちの内包した時間もまた巻き戻される」と由紀が感じるとおり、この事件をきっかけに、由紀と迦葉は自分たちの関係性に決着をつけることとなる。
タイトルの「ファーストラヴ」の意味を、どう捉えたらいいか。男女の「初恋」かもしれないが、本作では家庭や家族がテーマになっていることから、生まれて初めて他者から受ける愛情を意味しているとも捉えられる。
環菜が犯罪を犯した背景、由紀と迦葉の関係性、環菜に下される判決に対する受け止め方は様々だと思うが、読み応えがあり、完全に物語の世界に引き込まれた。それにしても、優秀な弁護士らしからぬ、くだけた言葉遣いと振る舞いをする迦葉が、圧倒的な存在感を放っている。
著者は、1983年東京都生まれ。高校在学中の2001年に「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞し、デビュー。03年『リトル・バイ・リトル』(単行本は同年、文庫本は06年講談社刊、復刊された文庫本は18年KADOKAWA刊)で野間文芸新人賞。15年『Red』(中央公論新社)で島清恋愛文学賞受賞。著書に
『ナラタージュ』(KADOKAWA)、『真綿荘の住人たち』(文藝春秋)、『アンダスタンド・メイビー』(中央公論新社)、『夏の裁断』(文藝春秋)、『イノセント』(集英社)、『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』(幻冬舎)など多数。
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BOOKウォッチ編集部 Yukako)