高校野球の夏の甲子園は今年、100回目の記念大会。その歴史のなかで、ブラバン応援は、いまでは球場に欠かせないものになった。ブラバンはブラスバンドのこと。ブラスバンドと吹奏楽とは厳密には違いがあるそうだが、吹奏楽の愛称としてブラバンと呼ばれるという。
応援で演奏される楽曲は各校独自のマーチもあれば、かつてのヒット曲のアレンジ、アニメソングなどさまざまで、近年では予選から、応援のパフォーマンス目当てに球場に足を向けるファンも少なくないという。本書『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』(文藝春秋)の著者は、そうしたファンの一人。興味が高じてディープなリサーチに挑んで仕上げたものだ。
著者はスポーツには興味がなく、高校野球についてもファンというわけではなかった。中学・高校で吹奏楽部に所属し、いずれもが全国のコンクールに出場するような強豪校。その演奏経験から、ブラバン応援に興味を持って取材を重ねるようになり、いまでは「高校野球ブラバン応援研究家」を名乗るほど。2年前に同タイトルの単行本を出版、本書は、夏の甲子園の第100回記念大会に合わせ「新ネタ大増量」して文庫化された。
高校野球をそれなりのスパンで見ているファンに知られているが、以前の高校野球の応援といえば、六大学野球の応援を応用したものが多く、本書でも「早稲田と慶応の応援曲ばかりだった」「六大学野球の応援の真似をする学校が多かった」という声が紹介されている。具体的には、早大の「コンバットマーチ」と慶大の「ダッシュKEIO」。著者が「野球に詳しくないわたしですら両方とも知っている。何度も耳にしたことがある」。「コンバットマーチ」が誕生したのは1965年。翌年、対抗するように「ダッシュKEIO」の演奏が始まった。
両曲とも、グラウンドの選手でなくても、スタンドで聞いていても高揚感がわく。高校野球の応援に応用されるのは当然だろうと考えるところだが、高校野球のブラバン応援のオリジナル曲には、これらより以前につくられ、スタンダード化しているものがあった。甲子園の常連校である天理高校(奈良)の「ファンファーレ」がそれ。ヒットで走者が出たときに奏でられる曲で、同校以外では「天理ファンファーレ」と呼ばれる。正確にはオリジナルではなくアレンジされたもので1959年の選抜大会から使われてから拡大。プロ野球阪神の応援でも使われている。
著者は、早大「コンバットマーチ」の作曲者で、当時、同大応援部吹奏楽団に所属していた三木佑二郎さんにインタビューしているが、そのなかで三木さんは同曲制作中に「天理高校のファンファーレが浮かんでいた」と述べている。三木さんの「コンバットマーチ」前までの大学野球の応援スタイルは、早大なら「紺碧の空」、慶大なら「若き血」など、比較的スローな学校公認の応援歌や校歌を歌い、あとは拍手と声援というのが主流。ブラスバンドは歌の伴奏が役割だった。そこに、演奏で高揚感を盛り上げる「コンバットマーチ」が登場したうえ、その年の秋に早大が優勝したこともあり、応援のプチ革命のきっかけになったよう。春夏の甲子園で開催期間中「聴かない日はないといっても過言ではない」と著者。「吹奏楽の野球応援において礎を築いた存在といえるだろう」と述べている。
「天理高校のファンファーレ」や「コンバットマーチ」などの定番曲とは別に、ブラバン応援で多用される曲、ブラバン応援ファンに人気の曲があり、演奏する側、鑑賞する側で共通で人気1位という曲があり、それは「アフリカン・シンフォニー」。もとの曲は、1974年に発売されたヴァン・マッコイのディスコ曲で、著者の調べによると、甲子園では78年にPL学園(大阪)が初めて演奏したという。その後、智弁和歌山(和歌山)の演奏が知られるようになり、応援曲としては「チベン」として広まったこともあったという。
本書では、ほかの名物曲についての解説のほか、楽譜が入手しやすいかどうかで応援で使われるかどうかを左右するなどの裏話も豊富だ。アニメソングが多いことや、かつてのヒット曲のアレンジをしばしば耳にするのはそういうことがあったのかと知らないうちにうなずいてしまう。
吹奏楽で全国レベルの力を持つ高校は、野球部の強豪校が多いこともあり、甲子園のブラバン応援の演奏レベルは高いという。高校生による野球以外のコンテストものを「○○の甲子園」と呼ぶことが定着しているが、こちらは本物の?「ブラバン甲子園」。本書で準備をすれば、100回記念の夏の甲子園を、何倍かは余計に楽しめそうだ。
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