今でも呼吸するように無意識のうちに思い出すことがある。未練とは少し違う、むしろ穏やかに彼を遠ざけているための作業だ。私と彼の人生は完全に分かれ、ふたたび交差する可能性はおそらくゼロに近い――
高校卒業式の日、演劇部顧問の葉山先生とのある出来事が起きて以来、泉の気持ちはずっと同じ場所にあった。大学二年生の春、泉は母校の演劇部の練習に参加することになり、葉山先生と久々に再会する。
高校生だった泉は、葉山先生のことが好きで、少しでも力になりたいと思っていた。また、葉山先生は泉を必要としていた。再会した二人が、互いに惹かれ合う気持ちを再認識すると、静かに抑制していたはずの感情が、再び熱くうずき始める。
「お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある」「無理だ、僕にはできない」――
葉山先生はある事情を抱えていて、どれだけ互いに求め合っても、決して結ばれることはない。それでも、一度蘇った情熱は、許される限り近くにいたい、力になりたい、触れたい、愛したい、と二人を突き動かすのだが・・・。
「ナラタージュ」とは、映画の回想シーンで多く用いられる、語りによって物語が展開していく手法のこと。登場人物のキャラクターや心情、情景が丁寧に描写されていて、本書の世界に深くはまり、自分の中にある熱いものが呼び覚まされる。
著者の島本理生は、2003年高校在学中に『リトル・バイ・リトル』が芥川賞候補となり、同年野間文芸新人賞を史上最年少で受賞。『生まれる森』(04年)、『大きな熊が来る前に、おやすみ』(06年)も芥川賞候補となる。『ナラタージュ』は、06年版「この恋愛小説がすごい!」第一位に輝き、累計40万部超えのベストセラーとなる。本書は、05年2月に刊行された単行本を文庫化したもの。
今年10月に映画(監督・行定勲 主演・松本潤、有村架純)が公開された。原作の発表から10年あまり企画を温め続け、今回満を持しての映画化という。脚本は、原作の持つ世界観を大切にしながらも大胆な解釈を加え、ラストはオリジナルになっている。小説・映画あわせて『ナラタージュ』の世界観に浸りたい。
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