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「直木賞」島本理生が描く、傷ついた女性小説家の四季

夏の裁断

 著者の島本理生は2018年7月18日、『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞したばかり。10日発売の本書『夏の裁断』(文藝春秋)は、最新刊となる。15年の芥川賞候補作「夏の裁断」に書き下ろし三篇を加えた文庫オリジナルだ。

 「夏の裁断」「秋の通り雨」「冬の沈黙」「春の結論」の順に物語は進む。小説家の千紘は、祖父の残した鎌倉の古民家で蔵書を裁断して「自炊」する生活を始める。季節ごとに現れるそれぞれの男たちと関係を持ち、時に翻弄され、苦悩する千紘の四季が描かれている。ここで言う「自炊」とは、書籍を裁断・解体し、スキャナーで読み取り、デジタルデータに変換すること。

 パーティ会場で編集者の柴田とばったり顔を合わせた千紘は、とっさにフォークを握りしめ、彼の手首にフォークを突き立てる。「柴田さんが振り返る。色素の薄い前髪から覗いた目は傷ついたように見開かれていた。被害者と加害者っておんなじだ、とぼんやり思った」という夏の冒頭シーン。千紘と柴田との間に潜む、ただならぬ事情を予感させる。

 「ああ、この世にはまだこんなに人を傷つける方法があったのか、と死んでいくような気持ちで思った」。心が通ったと感じた瞬間に突き放される関係性の中で、千紘は深く傷ついていく。千紘は13歳の頃、大人の男性に性行為を強要された経験を持っていた。男は怖いものだという感覚が、大人になった千紘に影を落とす。

 柴田への膨大な我慢と混乱の時間は、何の意味もないと悟った千紘は、会社員の清野と秋に出会う。軽さと細やかさを内包した清野は、どこか柴田と似ていた。「ないと分かっていても完ぺきで永遠なものが欲しい」と願う冬を経て、小説家として、人間として千紘が変化する春。やや陰りのある登場人物たちに魅力を感じ、作品世界に入り込んだ。

 「本は好きだった。だけど何年書き続けても、到達できない場所を目指している感覚が常に付きまとっていた」「百年後には紙の本なんて一冊も残らないかもしれない。最後に言葉が残るのは人の中だけで、それも、いつかは消える」――。千紘が小説家として発する言葉は、著者自身のものであるように感じられる。著者がどんなことを考えて書いているのか、垣間見た気がした。

 著者は、1983年東京都生まれ。小学生の頃から小説を書き始めたそうで、98年には15歳で『ヨル』で『鳩よ!』掌編小説コンクール年間MVPを獲得。11年『アンダスタンド・メイビー』が直木賞候補になる。この他の著書に『ナラタージュ』『あられもない祈り』『七緒のために』『匿名者のためのスピカ』『イノセント』『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』など多数。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 夏の裁断
  • 監修・編集・著者名島本 理生 著
  • 出版社名株式会社文藝春秋
  • 出版年月日2018年7月10日
  • 定価本体680円+税
  • 判型・ページ数文庫判・256ページ
  • ISBN9784167911003

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