反日種族主義
2019年12月24日、中国の成都で日中韓首脳会談の後、1年3か月ぶりに日韓の首脳会談が開かれ、諸課題について対話を通じて解決することで一致した。しかし、解決の見通しは依然として立たない。日韓関係が最悪となった今年、韓国関連の本の出版が相次いだ。
最も注目されたのは、『反日種族主義』(文藝春秋)だろう。元ソウル大学教授の李栄薫(イ・ヨンフン)氏ら6人の専門家が、日本による植民地支配や慰安婦問題、徴用工問題などを歴史的研究に基づいて論証した本だ。韓国で7月に刊行され、10万部。日本でも11月に出版され、25万部を超えるベストセラーになった。
韓国に根付くシャーマニズムが嘘をつく風土を助長していると、李氏は主張。日本による植民地支配が極端に歪められて、韓国で浸透していることを論証した。韓国では反発を受けているが、専門家が冷静な歴史認識を訴える姿勢は、日本の読者の共感を呼んだ。
韓国の風土については、韓国出身で拓殖大学国際学部教授の呉善花(オ・ソンファ)さんの『韓国を蝕む儒教の怨念』(小学館新書)が参考になるだろう。李朝時代に儒教=朱子学がイデオロギーとして定着し、「法よりも道徳が上位にある」という認識が強いというのだ。そして、反日心情はあらゆる法を超えた民族の正義だという思想になっているという。
しかし、なぜ道徳を重んじる伝統の国なのに、犯罪や不正が多いのか。それは不正の温床となる「現世主義」がはびこっているからだ、と呉さんは見ている。
『日本近現代史講義――成功と失敗の歴史に学ぶ』 (中公新書)は、14人の学者が執筆。日本の植民地支配と歴史認識問題について、木村幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授が書いている。歴史認識問題がこじれている背景に、韓国の経済的な自立がある、と分析。政治に経済がブレーキを掛けられない現状があることを指摘している。
韓国の現状については、朝日新聞の前ソウル支局長だった牧野愛博さん(現・編集委員)『ルポ「断絶」の日韓』(朝日新書)が詳しい。日本以上に大企業重視、学歴偏重という社会のゆがみが大きく、韓国の人々は怒りや不安を抱えているという。だから日本への関心も知識もない一部の集団が激しい日本批判を繰り返し、溜飲を下げている、と牧野さんは見ている。
「韓国人は皆、日本が好きだが、公の場で日本を擁護するのは難しい」という韓国の知人たちの言葉を紹介している。
日韓関係は緊張をはらんでいるが、韓国の小説やエッセイが日本でベストセラーになり、注目された。筆頭はチョ・ナムジュさんの『82年生まれ、キム・ジヨン』。今年の文芸書の売り上げベストテンにランクインした。男尊女卑の風潮が強い韓国で、女性の主人公がたくましく生きる姿が日本でも共感を集めた。
また、イラストレーター兼作家のキム・スヒョンさんによるイラストエッセイ『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)も「日々を懸命に生きる、平凡な私たちへのエール」が支持され、日本でも10万部が売れた。
こうした中、河出書房新社の季刊文芸誌「文藝」秋号が、「韓国・フェミニズム・日本」特集を組み、発売5日で重版になるという異例の展開を見せた。女性たちが国境の壁を越えて、文学作品でお互いの理解を深めている姿にかすかな光明が見いだせるかもしれない。
核開発をやめず、米朝交渉の行方が注目される北朝鮮。その内幕を暴露したのが、『三階書記室の暗号 北朝鮮外交秘録』(文藝春秋)だ。著者の太永浩(テ・ヨンホ)さんは、亡命した北朝鮮外交官の中では最高位にあたる人。北朝鮮が核開発をやめることは決してない、と断言している。政権中枢に近い人だけが知るエピソードが満載だ。著者は、最終章で「金王朝の崩壊が始まった」と書いており、来年も北朝鮮の動きから目が離せない。
天安門事件から30年を迎えた中国。日本との関係改善が進み、2020年には習近平・国家主席が国賓待遇で来日すると見られる。中国の内情に迫ったのが、『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』 (朝日新書)だ。著者の峯村健司さんは中国軍の深奥に関するスクープで知られる朝日新聞記者。中国特派員時代は当局に20回以上拘束された、その取材体験を振り返っている。だが、今は当時のような取材はできないという。中国が世界最強のハイテク監視国家になったからだ。
その恐ろしさについては、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)、『習近平のデジタル文化大革命』(講談社+α新書)が詳しい。そのネット独裁主義がアフリカにまで及んでいる近況を『チャイナスタンダード』(朝日新聞出版)が伝えている。日本との緊張緩和が進んだといっても、依然中国の動向には注意が必要だ。
中国のSF小説『三体』(早川書房)の日本上陸も話題になった。中国で三部作合計2100万部を記録する大ベストセラーだ。SF最大の賞であるヒューゴー賞をアジア人作家として初めて受賞。アメリカのオバマ前大統領も愛読しているというふれこみで日本に登場し、広く受け入れられた。人類が異星文明とファーストコンタクトを取るという壮大なスケール。
本書は三部作のまだ入り口にすぎない。第二部『黒暗森林』、第三部『死神永生』と今後、日本での刊行が続く。
秦の始皇帝による国家統一前夜を描いた映画「キングダム」が2019年4月19日に公開され大ヒットした。映画の公開に合わせて出版された『始皇帝 中華統一の思想 「キングダム」で解く中国大陸の謎』(集英社新書)は、きわめて分かりやすく中国の古代史を解説してくれる。登場人物の多くは史書に登場する。日本の弥生時代にすでに紀伝体の歴史書ができていたわけだから、中国の底力には驚嘆せざるを得ない。
古代から近未来まで、中国の懐の大きさに本を通じてふれることが出来る。
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