日本で韓国や中国の主張に一定の理解を示すと、「反日」などと指弾されることがある。逆にあちらの国でも日本の主張に理解を示すと、「親日」などと攻撃されるようだ。そんなこともあり、日本と中国や韓国との関係改善がいっこうに進まない。
本書『だれが日韓「対立」をつくったのか――徴用工、「慰安婦」、そしてメディア』(大月書店)は、近年とくに深刻になっている日韓関係のこじれの原因を探ったものだ。出版元の大月書店は『マルクス=エンゲルス全集』で知られる。
本書は「PART1 徴用工問題――『韓国はルール違反』の真相」、「PART2 主戦場としての『慰安婦』問題――『少女像は反日』か?」、「PART3 韓国はなぜ歴史問題にこだわるのか?」、「PART4 なぜ、これほど日韓関係は悪化したのか?――メディアのズレを読む」、「PART5 解決への道はあるのか?」に分かれている。
それぞれのPARTでさらに「なぜ徴用工は損害賠償を求めているのか?」、「韓国はなぜ話を蒸し返すのか?」、「日本軍の強制連行はなかった?」、「『慰安婦』は、ビジネスで、『性奴隷』ではない?」、「なぜ米国にも『慰安婦』の碑を建てるのか?」、「日本はお金も払って責任を果たしたのに、なぜ韓国は『合意』を無視するのか?」、「『韓国併合』のどこが問題なのか?」、「日本のマスメディアは日韓関係の悪化をどう報じ、何を報じていないか?」、「『戦後生まれ』が責任を問われるのはなぜか?」など合計16のクエスチョンを提示し、その回答を記している。
全体の編者は岡本有佳さんと、加藤圭木さん。岡本さんは1963年生まれの編集者。Fight for Justice日本軍「慰安婦」問題サイト運営委員。共編著に『《自粛社会》をのりこえる――「慰安婦」写真展中止事件と「表現の自由」』(岩波ブックレット)がある。加藤さんは83年生まれ。一橋大学大学院准教授(朝鮮近現代史・日朝関係史)。著書に『植民地期朝鮮の地域変容――日本の大陸進出と咸鏡北道』(吉川弘文館)。このほか14人の筆者が個別の項目を担当している。韓国系と思われる名前も多い。
本書のクエスチョンの中で特に興味を持ったのは「韓国メディアは日韓関係の悪化をどう報じ、何を報じていないか?」。
ひとくくりに「日本のマスコミ」といっても様々だ。特に近年、メディア間のスタンスの違いも大きくなっている。では韓国はどうなのか。答えるのは吉倫亨・ハンギョレ前東京支局長。
吉氏によると、韓国の世論を主導するのは日刊紙だという。10紙ほどあるが、影響力が大きいのは保守系三紙「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」と、進歩系とされる「ハンギョレ」「京郷新聞」の二紙。「朝・中・東」と呼ばれる保守三紙の外交・安保問題への向き合い方は日本の読売新聞と似ているという。
しかし、この保守三紙も、日本軍「慰安婦」問題や強制動員被害者(日本では徴用工と呼ばれている)問題など「歴史問題」を扱うときは、韓国人の心情を反映し、日本に批判的な報道をする。ただし、韓日の葛藤が安保問題にまで影響を与えるほどに悪化すると、急速に報道方針を変え「和解」や「事態収拾」を主張するのだという。ハンギョレの吉氏の立場からすると、「右往左往する姿を見せる」というわけだ。
対照的にハンギョレなどの進歩二紙は一貫性があり、日本の新聞で言えば東京新聞や日本共産党の「赤旗」に近いという。韓米同盟も重要だが、南北関係改善を重視し、韓国がうかつに韓米日の軍事協力に加担することを警戒する立場だ。
韓国は保守と進歩に国論が二分されていると言われる。それぞれが100万人規模のデモを行う。大統領も、いまの文在寅大統領は進歩派で、その前は2代続けて保守派だった。どうやら新聞も色分けされているようだ。
日本のメディアはよく韓国の日刊紙の報道を紹介する。日韓関係がかなり大きくごたついた局面では、その傾向が強い。「ついに韓国メディアも韓国政権を批判し始めた」という形で報じられることがある。上記のような韓国メディアの特性を頭に置いておくと、理解しやすいと思った。
さらに吉氏は、韓国における「反日」と「嫌日」の違いについて説明している。韓国には、日本における「嫌韓」のような、日本人を日本人という理由で差別・排除し蔑視する「嫌日」感情は存在しないのだという。日本では一部週刊誌や月刊誌がさかんに「嫌韓」感情をあおるが、韓国の週刊誌や月刊誌が同じような形で「嫌日」感情をけしかけることはないという。吉氏は、やや皮肉を込めて以下のように語る。
「韓国には、『週刊文春』がなく、『正論』や『WiLL』もなく、『夕刊フジ』も存在しません。そして、日本や安倍総理をやたらと誹謗中傷する言葉があふれる地下鉄の中吊り広告も、見つけることはできません」
評者は韓国に疎いので、本当にそうなのかの判断はできないが、ここではとりあえず吉氏はそう言っているということにとどめておこう。
本書の編者の岡本有佳さんは「あいちトリエンナーレ2019」の実行委員でもあった。本書は日本の10代の若い読者も読めるようにと、分かりやすくすることを心がけたという。
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